フィリピン革命に先立つ改革運動の中心的指導者,民族英雄。ルソン島南部のラグナ州カランバ町の教養ある大借地農の家庭に生まれ,マニラのアテネオ・デ・マニラ学院,サント・トマス大学で学んだ後,1882年スペインのマドリード中央大学に留学して医学と古典文学を学んだ。留学前から民族意識に目覚めていたホセは,フィリピンに比して自由主義的な植民地本国の空気の中でその自覚を強め,同胞の留学生らに呼びかけてフィリピン統治改革を求める言論活動(プロパガンダ運動)を開始した。87年出版の最初の小説《われに触れるな》はスペイン当局に強い衝撃を与え,彼らの運動を一躍有名にした。しかし,この年帰国して郷里カランバ町で組織した修道会所領の小作料値上げ反対運動は当局の徹底した弾圧をうけ,指導者の彼は国外脱出を余儀なくされた。この経験以後,穏健な改革運動は不毛だとの認識を深め,状況によっては革命もやむなしとする急進的な思想を抱くにいたった。2番目の小説《反逆》(1891)はそのメッセージを伝えたものである。同時に彼はこの事件以後,スペイン当局に向かってする言論活動よりも,フィリピン人自身の民族的自覚を育成する著述活動に専念するようになった。92年6月決死の覚悟で再度帰国し,7月2日にフィリピン民族同盟を結成してその思想の実践に着手した。しかし数日後に反逆罪の名で逮捕され,ミンダナオ島のダピタンへ流刑された。幽囚の生活に疲れた彼は,96年スペイン政府軍医としてキューバ独立戦争に従軍することを申し出て,一度はスペインへ到着したが,同年8月フィリピン革命が勃発したため,革命扇動者の容疑をうけて連れ戻され,12月30日に処刑された。
執筆者:池端 雪浦
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フィリピンの民族的英雄。ラグナ州カランバ町の富裕な大借地農の家庭に生まれる。マニラのアテネオ・デ・マニラ学院、サント・トマス大学で学んだのち、1882年スペインのマドリード中央大学に留学、医学と古典文学を修めた。留学中、ヨーロッパの自由主義思想に触発され、同胞の留学生らに呼びかけて、スペインのフィリピン統治改革運動を開始した。彼は初め、小説『ノリ・メ・タンヘレ』(1887)や運動の機関紙『団結』紙上に発表した評論などを通じて、スペイン政府に植民地改革を促す運動に専念したが、1887年に帰国して郷里カランバ町で組織した修道会所領の地代値上げ反対運動が、当局の徹底した弾圧を受け、彼は国外脱出を余儀なくされるという事態を経験して以後、状況によっては革命もやむなしとする急進的な思想を抱くに至り、二番目の小説『反逆』(1891)を公にした。同時に、スペイン政府に向かってする言論活動よりも、むしろフィリピン人自身の間に民族的自覚を育成する仕事に専念するようになった。1892年6月決死の覚悟で再度帰国、7月2日「フィリピン民族同盟」を結成したが、数日にして逮捕され、ダピタン島へ流刑された。1896年8月フィリピン革命が勃発(ぼっぱつ)すると、革命扇動者の容疑を受け、12月30日処刑された。
[池端雪浦]
『ホセ・リサール著、岩崎玄訳『ノリ・メ・タンヘレ』(1976/1986・井村文化事業社)』▽『ホセ・リサール著、岩崎玄訳『反逆・暴力・革命――エル・フィリブステリスモ』(1976・井村文化事業社)』
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1861~96
フィリピンの国民的英雄。ルソン島ラグナ州の教養ある名家に生まれ,スペインで医学と哲学・文学の二つの学部を同時に修めた鬼才。2冊の小説と多くの評論を著して,フィリピン革命に先立つ思想・言論活動の旗手を務めた。なかでも,フィリピン人の民族的帰属意識の形成に果たした役割は大きい。その思想的影響力から,革命開始後,首謀者の冤罪(えんざい)を着せられ処刑された。死後,彼に対する尊敬は一層高まり,処刑の日である12月30日は国民の祝日になっている。
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…この他に注目される新宗教は,一般にリサリスタRizalistaと総称される諸宗教組織である。リサリスタの特徴は,民族英雄リサールがやがて救世主として人々を救いに来てくれるという信仰にある。 フィリピンの宗教は多様であるが,おおかたのフィリピン人の社会生活は,カトリック教会の教会暦を中心に展開されている。…
※「リサール」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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