満州事変に関する国際連盟調査委員会の報告書。満州事変について日本は国際連盟で不拡大を言明したが,1931年10月8日関東軍の錦州爆撃,11月の遼西進攻作戦などにより,国際連盟は日本に対する不信を強めた。孤立に陥った日本は,国際連盟事務総長ドラモンドJ.E.Drummond(1876-1951)のすすめで,現地への調査委員会派遣を提案し,12月10日の理事会でこれが可決され,32年1月委員長にリットンV.A.G.R.Lytton(1876-1947)(イギリス),委員にマッコイF.R.McCoy(アメリカ),クローデルH.Claudel(フランス),シュネーH.Schnee(ドイツ),アルドロバンディL.Aldrovandi(イタリア)が任命された。リットンらは2月3日ヨーロッパを出発し,アメリカを経て,29日東京に着き,日本政府首脳らと会見したのち,3月11日中国へ向かい,各地(上海,南京,北京,〈満州国〉など)で現地調査を行った。調査団は7月4~14日ふたたび訪日し,中国で報告書を起草して,10月1日,日中両国および国際連盟に対し〈国際連盟日華紛争調査委員会報告The Report of the Commission of Enquiry of the League of Nations into the Sino-Japanese Dispute〉を提出した。この文書が,委員長の名をとって〈リットン報告書〉と呼ばれる。
報告書は緒言と10章とから成り,まず満州事変の発端となった柳条湖事件について,日本軍の軍事行動を〈合法なる自衛の措置と認むることを得ず〉と認定し,満州国についても,〈現在の政権は純真且自発的なる独立運動に依り出現したるものと思考することを得ず〉と断定して,柳条湖事件以来の日本の主張を否定した。しかし報告書は他面で,〈毒悪なる排外宣伝〉が中国の〈社会生活の有らゆる方面を通じて実行せられた〉こと,日本が中国の〈無法律状態に依り他の何れの国よりも一層多く苦しみた〉ることなどが紛争を誘発したとして中国の側にも一半の責任があると認定した。以上のことから,報告書は〈単なる原状回復が何等解決たり得ざること〉は明らかであるとし,東三省(吉林,黒竜江,奉天の3省)に広範な自治をあたえ,自治政府を設けること,特別憲兵隊が治安維持にあたり,それ以外の日本,中国のすべての武装隊は撤退すること,自治政府に外国人顧問を任命し,〈其の内日本人は充分なる割合を占めること〉,などを提議した。結局,報告書の構想は東三省を日本を中心とする列強の共同管理下におくことにあり,日本の排他的な覇権を否定する一方,日本の優先的地位を認め,日本が国際連盟と妥協することを期待するものであった。
しかし,すでに満州国を承認していた日本は報告書の提案をまったく受けつけず,11月21日開会の国際連盟理事会に報告書が付議されると,日本代表松岡洋右はこれを激しく非難し,報告書の提案を問題解決の基礎として受け入れるという中国代表と激論を重ねた。審議は12月臨時総会に移され,スウェーデン,ノルウェー,チェコスロバキアなどの小国は即時採択を主張したが,イギリス,フランスなどの対日宥和(ゆうわ)策により,日中を除く19人委員会に付託された。1933年2月14日,19人委員会はリットン報告書採択・満州国不承認の報告案を可決し,24日の総会がこの報告案を日本のみの反対で42対1の票決により採択すると,日本代表は退場,3月27日,日本は国際連盟に脱退を通告した。
執筆者:江口 圭一
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満州事変に際し,国際連盟理事会決議にもとづいて派遣された現地調査委員会(リットン調査団)の報告書。上海・北平(ペイピン)(北京)・満州の実地調査と要人との会見をもとに厖大な報告書を作成,1932年(昭和7)10月2日に公表。穏やかな表現ながら柳条湖事件以来の日本軍の行動を自衛行動とは認めず,満州国建国を自発的な自治運動の結果とも認めなかった。また満州に中国主権下の地方自治政府を設け,日本の主導のもとに列国の国際管理下におくことを提案していた。報告書の勧告は国際連盟での審議の基礎となるものであったが,すでに満州国を承認していた日本はこれに反発し,連盟脱退への道を歩むことになる。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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