従来から行われてきた遺伝学研究では、生物の突然変異で生じた機能や外観の変異から、その変異に関与する遺伝子を特定し、さらにその遺伝子の染色体上の位置や塩基配列を決定するのが、基本的な研究の流れである。このような遺伝学研究によって多くの成果が得られている。現在ではこうした遺伝学的手法をフォワードジェネティクス(順遺伝学)とよぶ。これに対し、特定の遺伝子の配列情報や特定の遺伝子を破壊・欠損させることよって生物に生じる現象から、その遺伝子が関与する機能や生物の体内における働きを特定するという研究手法をリバースジェネティクス(逆遺伝学)とよぶ。
リバースジェネティクスの研究分野が成立した背景には、フォワードジェネティクスを中心とした歴史ある従来の遺伝学的手法による多くの実験研究の蓄積、ヒトをはじめいろいろな生物で得られたゲノム解析の成果などがあった。しかし、この研究が大きく発展した具体的な要因として特筆すべきは、ノックアウトマウス(遺伝子改変マウス)の作出である。リバースジェネティクスの研究には、特定の遺伝子だけを選択的に破壊または欠損させた実験動物が必要だからである。ノックアウトマウスとは、染色体上のある特定の遺伝子をほかの遺伝子と置き換えた実験動物であり、1989年に世界で初めて開発された。このことは、リバースジェネティクス研究において画期的な出来事となり、ノックアウトマウスを開発したイギリスとアメリカの研究者3人(カペッキ、エバンス、スミシーズ)は、その業績により2007年にノーベル医学生理学賞を受賞した。
また、リバースジェネティクスは、実験に応用可能な実験動物・生物の開発を主とする基礎的な研究と、こうした実験動物・生物を用いた応用研究とに大別することができる。基礎的な研究では、いろいろな生物を実験の試料として利用している。大規模な研究で使われる実験動物の代表的なものがノックアウトマウスであり、ノックアウトマウスは、この分野の研究開発に大いに貢献している。しかし、ノックアウトマウスの作出には時間と費用を要する。そこで、新たな実験動物の開発が進められてきた。その一つが小形魚、とくにノックアウトメダカの作出である。2007年(平成19)、京都大学においてノックアウトメダカが開発され、実験動物としての受託生産が可能になった。
こうしたノックアウトマウスやノックアウトメダカを用いたリバースジェネティクス法は、基礎研究分野への応用はもちろん、ワクチン等の医薬品開発等への応用も進められている。具体例として、リバースジェネティクス法によるインフルエンザ生ワクチン株の作出への利用に関する研究発表などが報告されている。この方法によって、より安全性の高いインフルエンザ生ワクチンの開発が可能になれば、多くの人々がその恩恵に浴することになる。さらにリバースジェネティクス法の応用分野拡大を目ざして研究が推進されているが、各種ゲノム解析の成果と相補的に活用することによって、病気の原因解明や新しい医薬品の開発などが期待される。
[飯野和美]
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