リーガル・カウンセリング(英語表記)legal counseling

最新 心理学事典の解説

カウンセリング的に配慮された法律相談のことをリーガル・カウンセリングという。近年,個人の意思が尊重され選択の自由が与えられると同時に,個人の権利を守るための苦労や選択の自由ゆえの迷いが生じることが増えている。法律が大衆化していく中で,家族内や職場内で起こった問題も,身内同士の話し合いや譲り合いではなく,法による解決が求められるようになった。そしてその内容は,相手との利害や感情がもつれ合う問題がほとんどである。その結果,契約に基づく専門家の介入が必要となり,弁護士が行なう法律相談の世界でもカウンセリング・マインドをもって相談者の主体性や人権を尊重しつつ,相互に対等なコミュニケーションの中で相談活動を進めることの重要性が主張されるようになってきた。

【ヒューマン・サービスとしての法律相談】 具体的に法律相談活動で配慮すべきポイントを見ていきたい。⑴相談の入口 弁護士のもとを相談に訪れる相談者は,長い争いに疲れ切っていたり,心が傷ついていたり,訴訟に勝てるかどうかの不安で追い詰められている場合が多い。プライバシーや人権が守られた相談スペース(隣の相談内容が聞こえない,大きな声で呼名されないなどの工夫),受付の配慮(そばで待っている人に相談内容が聞こえないよう,申込票などを活用するなど)も大切である。⑵信頼関係を築くために 通常,相談者は法律の素人である。そのため,難解な専門用語を多用すると,相談者との心的距離を広げてしまう。弁護士が対話の主導権を握るのではなく,専門用語については説明を付加するなどして,相談者のことばに近づこうという努力が必要となる。また,相談者の方も,法律とは異なる世界の専門用語を使うケースがある。そういうときは,わからないまま聞き流すのではなく,相談者の世界が十分に共有できるよう説明を求めることも大切である。そのやりとりが,正確な情報把握を可能にするだけでなく,話をしっかり聞いてもらっているという信頼感にもつながるのである。そしてもう一つ不可欠な心得に守秘義務がある。相談内容は,金銭問題にせよ離婚問題にせよ,できれば人に聞かれたくないようなきわめてプライベートな情報も多い。弁護士は,相談者の気持ちに配慮し,その場で聞いた内容についての秘密は厳守されるということを伝え,そのために細心の注意を払うことは最低限の義務だといえよう。⑶「聴く」 相談業務では,まずは傾聴が求められる。これはつまり,ことばの表面的な意味を聞くだけではなく,そのことばに隠された気持ちの部分に耳と心を傾けることである。そして,聴いた内容に共感的に理解をすることが大切である。さらに,その内容を評価せずに,ひとまずしっかり受けとめる受容も大事な要素となる。もちろん,内容によっては,相談者の訴えが法的に間違っている場合もあるだろう。訴訟で争っても勝てる見込みはないと判断されることもある。相談者自身が混乱してしまい,何を言いたいのか訊きたいのかハッキリしないことも少なくない。そういう場合も,頭から相手の主張を否定するのではなく,また弁護士として判断を下してしまう前に,まずは相談者の言い分を十分に引き出す技術が求められる。なぜなら,専門家である弁護士に受けとめてもらってから伝えられる助言と,最初から批判的に下される断定的な結論とでは,たとえ内容は同じでも相手(相談者)の心に浸透する程度は異なるからである。⑷「訊く」 弁護士には,法的な立場からなんらかの回答を出すという任務が課されている。「訴訟に勝てそうか」「離婚をしても慰謝料は取れるか」「損害賠償請求は,どの程度認められるか」など,相談者の関心が明確である場合は,それに焦点づけて事実を正確に把握する作業が必要となる。とくに金銭や親権の問題などが絡んでくる場合,相談者が自分に不利な情報を隠していないか,相手方はどんな行動を取っているのかなど,真実性を確認する作業が求められることになる。ただしこの場合も,弁護士のペースで進んでしまうと尋問や取り調べのような雰囲気になり,相談者との信頼関係が損なわれることにもなりかねない。相談者に対し「きちんと理解し正しく判断する際に必要なので教えて欲しい」というスタンスで,相談者の立場および気持ちを尊重しながら「訊く」技術が求められる。⑸判断し伝える 法律相談では,多くの場合30分から1時間という時間的制約の中で,事実関係を確認しその問題点を分析し,具体的な対応策まで提供するという任務がある。とりわけ,法律的な解決が難しいなどの理由で受任しない場合,最終的にはその事実を相談者が納得いくように伝えなくてはならない。たとえ結論は,相談者の希望どおりではなくとも,弁護士が誠意をもって相談者の言い分に共感しながら訊くことで,専門家に訊いてもらえたという達成感や満足感を得る人もいる。また,正確で現実的な情報を納得しながら受けとめる作業を通して,相談者自身の考え方や訴えそのものが修正される場合もある。また,相談内容によっては,法律相談として受けるのではなく,別の相談機関への相談を勧めた方がいい場合も出てくる。現実的な訴訟での勝ち負けよりも,本人の気持ちの整理や癒しの方が真の目的として見えてくる場合などは,カウンセリングや相談機関を勧めることが有効になることもある。また,相談者自らが精神疾患を抱えていると思われる場合や,医療機関への受診の必要性を感じるケースもある。信頼できる関係機関と緊密に連絡が取れる体制を,ふだんから作っておくことも大切である。ただし,医療機関などへの紹介は,相談者に見捨てられ不安を与えることになったり,相談者自身に病識や困り感がない場合は不快感や怒りを買ったりすることもあるので,最大限の配慮が求められる。

【リーガル・カウンセリングの独自性】 心理相談と法律相談の共通点はともに「助けを求めて訪れる人が対象になる」という点であり,その意味から弁護士にもカウンセリング・マインドが必要とされる。一方,弁護士が行なう法律相談には,その独自性もある。心理相談が,日常レベルとは異なる守られた時間と空間の中で心の深層が語られるのに対し,法律相談は現実問題(たとえば,訴訟に勝つか負けるか,慰謝料が取れるかどうかなど)に対する現実的な対応(訴訟するかしないか,どのような手段がありうるかなど)が話題の中心となる。そのため,文書レベルでのやりとりを主たる情報としたうえで,普遍的な法に照らした客観的な説明や助言が重視されることになる。さらに弁護士には,相談者のニーズに応えて専門的な法律知識を提供し,解決手段としての具体的な選択肢を提示する作業も求められるのであり,そこに弁護士の判断や裁量が問われることも多い。しかし,目の前の相談者自身が最終的な結論に納得できるかどうかは,弁護士の「聴く技術」「訊く技術」「伝える技術」にかかってくる。これからの弁護士には,法律に関する深い専門性に加え,実践的で人間的な相談技術を身につけるための訓練制度の確立が求められる。 →カウンセリング
〔伊藤 美奈子〕

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