ルオ族(読み)ルオぞく(その他表記)Luo

改訂新版 世界大百科事典 「ルオ族」の意味・わかりやすい解説

ルオ族 (ルオぞく)
Luo

東アフリカのケニア西部とタンザニア西部に居住するナイル系部族。人口約200万。ビクトリア湖北東岸,すなわち現在の西ケニアへ,ルオ族が小親族集団ごとに西方から進出してきたのは16~17世紀のことである。それ以後しだいに定着化の傾向を強め,周囲のバントゥー系諸族の一部をも同化吸収しつつ急速に人口が増加した。20世紀初頭にイギリスの植民地下に入って以来,新しい状況に比較的積極的に順応し,ケニアでは都市居住者も現在では約50万人いて,政治,経済,学術,その他の分野で主導的な勢力となっている。伝統文化に対する誇りと愛着も強く,伝統を生かした音楽,舞踊,演劇,文学などにおける活躍でも目だっている。

 伝統的な生業農耕牧畜漁業である。現住地に来てからは雑穀の農耕の比重が増したが,社会的にも価値観においても牛が重要で,スーダンウガンダに住むナイル系の牧畜民との共通点も多い。社会組織の枠組みは,スーダン南部に住むナイル系のヌエル族などと類似の分節構造をもったリネージである。現在行政単位となっているのは,かつて政治的に自律的な最大の地域社会であったピニイpinyにほぼ対応している。ピニイ内部は,ピニイと同一視される有力クランもしくはリネージと,それ以外の複数の小クランからなっているのが普通である。植民地支配下に入った当時,首長をもっているピニイとそうでないピニイとがあった。社会組織の最小単位は一夫多妻の大家族であり,生垣に囲まれ牛囲いを中央にした屋敷に住む。

 伝統的な世界観においては,神と死者が重要である。神nyasayeは世界の究極的な動因と考えられているが,人間生活に直接介入することはほとんどない。人間生活に大きな影響を及ぼす霊的な存在は死者である。死者には,普通の祖先,憑依霊juogi,たたって不幸をもたらす怨霊jachienがある。重要な宗教的専門家は占師兼治療者であるアジュオガと,同じく占いや治療を行う霊媒である。そのほか,不幸や災厄の原因としてたいへん重要なのは妖術である。タブーに対する違反とその結果としての病気はチイラと呼ばれ,これもきわめて一般的である。

 音楽や舞踏のほかに,言語表現の術を尊重する風が強い。各人がもっている賞賛名は諺的な表現とセットになっており,賞賛名,諺,諺的表現を駆使するスピーチは,ともにパクルオックと呼ばれる。大勢が会合する席では,このスピーチが一種競技として楽しまれる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ルオ族」の意味・わかりやすい解説

ルオ族
ルオぞく
Luo

ケニアを中心に,南スーダンからタンザニアにかけて居住するナイル語系諸族の一民族。言語はナイル諸語に属するルオ語を話す。人口は 300万人をこえると推定される。漁業,牛牧,農耕を行なうが,今日ではかつての牧畜に代わって農耕が最も重要である。社会生活の基本単位は一夫多妻家族で,これを中心としてホームステッドを構成し,各レベルの地域社会に,中心となる優勢な父系出自集団がある分節社会である。政治の中心は長老たちであるが,イギリス植民地化以前は地域集団(ピニー,オガンダ)によっては首長権が確立しつつあるところもあった。世界観は死者およびジュオギと呼ばれる精霊が中心で,供犠は主としてこれらの存在に向けられる。宗教的職能者としては,占い師,一種の呪術師(ジャビロ),霊媒(ジャジュオギ)などがおり,重要な役割を果たす。妖術も重要で,毒などを用いたり,邪視などを行なう。

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世界大百科事典(旧版)内のルオ族の言及

【ケニア】より

…308万),キシイ族(131万)などの農耕民が住んでいる。ナイル語系部族の代表は西部のルオ族Luo(265万)で,キクユ族と並ぶ人口をかかえ,政治的にも鋭く対立してきた。パラ・ナイル語系の牧畜民は中央の乾燥地帯に居住するが,その代表は伝統的な文化を保持するマサイ族(37万)である。…

【悪態】より

…ののしりのことばは,しばしば民俗分類や語彙論への鍵を提供する。 西ケニアのルオ族の社会では,悪態は言語表現の一つのジャンルとしてayanyiと呼ばれ,多少とも定式化している。ayanyiには三つのタイプがある。…

【ケニア】より

…308万),キシイ族(131万)などの農耕民が住んでいる。ナイル語系部族の代表は西部のルオ族Luo(265万)で,キクユ族と並ぶ人口をかかえ,政治的にも鋭く対立してきた。パラ・ナイル語系の牧畜民は中央の乾燥地帯に居住するが,その代表は伝統的な文化を保持するマサイ族(37万)である。…

【口承文芸】より

… 聴く側の態度は,やはり口承伝承の種類により,さまざまな伝統的取決めがある。そこで,一概には言えないが,たとえば物語を例にとっても,ケニアのギリヤマGiryama族の場合のように,非常ににぎやかで活発なことが聴く側に要求される例もあるし,同じケニアでもルオ族のように物語が続く間は聴き手は静かで注意深いことが要求される例もある。 口承伝承で取り扱われる内容,または口承伝承が演じられる機会や場所は,他の世界の場合とそれほど変りはない。…

【ことわざ(諺)】より

…口論や嘲弄も,自己紹介や自賛も,教育もしばしば諺を用いて行われ,また諺を用いて機知や言語表現の巧妙さを競うゲームをもっている社会もある。 東アフリカのケニア共和国に住むルオ族の社会にはパクルオク(自賛)とよばれる制度がある。各人は自賛名ともいうべき名前をもっていて,それは諺(的表現)を伴っている。…

※「ルオ族」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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