ルーマン(読み)るーまん(英語表記)Niklas Luhmann

日本大百科全書(ニッポニカ)「ルーマン」の解説

ルーマン
るーまん
Niklas Luhmann
(1927―1998)

ドイツの社会学者で、社会システム論の主導者。リューネブルクに生まれる。フライブルク大学で法学を学び、リューネブルク上級裁判所、ニーダーザクセン州文化省勤務を経て、1960~1961年アメリカ、ハーバード大学に留学、タルコット・パーソンズのもとで社会学を学ぶ。帰国後、シュパイアー行政単科大学、ドルトムント社会学研究所などに勤務しつつ、社会システム論の視点を取り入れた『公的組織の機能とその派生的問題』Funktionen und Folgen Formaler Organisation(1964)、『制度としての基本権』Grundrechte als Institution(1965)を上梓(じょうし)する。1968年よりビーレフェルト大学教授に着任、1993年退官。1998年ビーレフェルトにて死去。ハバーマスとともに第二次世界大戦後のドイツの理論社会学を牽引(けんいん)した「知の巨人」の一人。

 ルーマン理論の基本的な骨組みは、パーソンズの構造―機能主義を批判的に継承した社会システム理論であるが、その内容は時期によってだいぶ異なっている。馬場靖雄(1957― )の整理に従うなら、ルーマン理論の展開は、(1)初期:1960~1970年代なかば、(2)中期=移行期:1970年代なかば~1980年代前半、(3)後期=完成期:1980年代なかば~1990年代の3段階に分けることができる。

 初期は、「複雑性の縮減」をキーワードとした「機能―構造主義」「等価機能主義」を展開した時期。現象学的な「意味」概念を社会システム分析に導入し、独自のシステム理論を構築していった。『制度としての基本権』、『法社会学Rechtssoziologie(1972)、『権力』Macht(1975)などが代表的な作。またこの時期にはルーマンの名を世に知らしめた「ハバーマス・ルーマン論争(システムと生活世界の関係を主題化した論争)」が展開され、それをまとめた『社会理論か社会工学か』Theorie der Gesellschaft oder Sozialtechnologie(1971。邦題『批判理論と社会システム理論』)が出版されている。

 中期には、「自己言及」概念が導入され、社会システムの自律的な生成メカニズムに着目した理論研究が展開される。理論分析と歴史(社会分化の歴史)分析を節合させた『社会構造とゼマンティク 1、2巻』Gesellschaftsstruktur und Semantik 1, 2(1980、1981)、「愛」というメディアに照準した歴史研究『情念としての愛』Liebe als Passion(1982)などを上梓したのがこの時期にあたる。

 後期=完成期には、チリの神経生理学者マトゥラーナHumberto Romesín Maturana(1928―2021)とバレラが整備したオートポイエーシス概念が本格的に導入され、社会システムの「閉鎖性」が理論的・実証的に検討される。一般にルーマンの主著とみなされている『社会システム理論』Soziale Systeme(1984)のほか、『社会の経済』Die Wirtschaft der Gesellschaft(1988)、『社会の科学』Die Wissenschaft der Gesellschaft(1990)、『社会の法』Das Recht der Gesellschaft(1993)、『社会の社会』Die Gesellschaft der Gesellschaft(1997)など、タイトルに「社会の……」ということばを含む一連の著作が出版されている。

 壮大な社会文化論を内包するルーマンのシステム論は、社会学のみならず、心理学政治学、法学、倫理学、文学研究など多方面に大きな影響を与えた。

[北田暁大]

『村上淳一・六本佳平訳『法社会学』(1977・岩波書店)』『J・ハーバーマス、N・ルーマン著、佐藤嘉一・山口節郎・藤沢賢一郎訳『批判理論と社会システム理論――ハーバーマス=ルーマン論争』上下(1984、1987・木鐸社)』『長岡克行訳『権力』(1986・勁草書房)』『今井弘道・大野達司訳『制度としての基本権』(1989・木鐸社)』『春日淳一訳『社会の経済』(1991・文眞堂)』『ニクラス・ルーマン著、沢谷豊・関口光春・長谷川幸一訳『公式組織の機能とその派生的問題』上下(1992、1996・新泉社)』『佐藤勉監訳『社会システム理論』上下(1993、1995・恒星社厚生閣)』『馬場靖雄・上村隆広・江口厚仁訳『社会の法 1、2』(2003・法政大学出版局)』『佐藤勉・村中知子訳『情熱としての愛――親密さのコード化』(2005・木鐸社)』『馬場靖雄他訳『社会の社会 1、2』(2009・法政大学出版局)』『徳安彰訳『社会の科学 1、2』(2009・法政大学出版局)』『徳安彰訳『社会構造とゼマンティク』(2011・法政大学出版局)』『クニール=ナセヒ著、館野受男・池田貞夫・野崎和義訳『ルーマン 社会システム理論』(1995・新泉社)』『馬場靖雄著『ルーマンの社会理論』(2001・勁草書房)』『高橋徹著『意味の歴史社会学』(2002・世界思想社)』

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百科事典マイペディア「ルーマン」の解説

ルーマン

ドイツの社会学者。法社会学者,ハーバード大学でパーソンズに学び,1968年−1992年ビーレフェルト大学教授。セルフレファレンスとオートポイエシスを二つのとしながら,現象学を射程に据えた社会システム論を展開した。システムの形成は,環境世界の複雑性を縮減するための自己準拠システムの選択的な働きの結果であり,ゆえに環境世界をシステムとして理解する機能構造理論が有効性を持ち得る,とする。その普遍的な妥当性を掲げる一般理論への追求は,パーソンズ亡き後の社会学の一般理論を目指す試みとして注目されている。著書に《法社会学》(1972年)など。

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デジタル大辞泉「ルーマン」の解説

ルーマン(Niklas Luhmann)

[1927~1998]ドイツの社会学者。社会システム理論によって、第二次大戦後の理論社会学をリードした。また、政治学や心理学・文学研究などへの影響も大きい。著「法社会学」「社会システム論」など。

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367日誕生日大事典「ルーマン」の解説

ルーマン

生年月日:1927年12月8日
西ドイツの社会学者,法社会学者
1998年没

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