日本大百科全書(ニッポニカ) 「歴史社会学」の意味・わかりやすい解説
歴史社会学
れきししゃかいがく
Geschichtssoziologie ドイツ語
形式的には、歴史を対象として社会学的考察を行う社会学の一部門、と規定されないこともないが、いままでのところ社会学の体系のなかに十分な位置を与えられてはいない。また、歴史の動きを超越者の働きで説明したり、思弁的に構成したりする歴史哲学に対して、歴史の内的論理を社会学的に基礎づけようとする傾向という広い意味でとれば、コンドルセ、コント以来の進歩史観や発展段階説、さらにマルクスの唯物論的歴史把握を、実質的に歴史社会学に数えることもできよう。しかし、コント流の進歩史観ではまだ今日のような哲学と社会学の区別はなされておらず、またマルクスの唯物史観の基礎科学は経済学であって社会学ではない。したがって、特殊な「社会学主義」をとらない限り、これらを歴史社会学のなかに数えることは僭称(せんしょう)のそしりを免れない。いわゆる総合社会学の崩壊後、経済学との分業態勢の下に独立を図ろうとした社会学は、むしろルカーチが批判するように、歴史から遊離する方向に形式的理論化を進めていったといえよう。また認識の歴史的・社会的制約を主張する歴史主義社会学も、歴史社会学とは区別すべきであろう。
したがって、固有の意味での歴史社会学は、20世紀初頭において今日的意味での社会学が確立されたのち、そのような社会学的方法を用いて行われた一連の歴史研究によって成立したと考えるべきであろう。その場合、過去の特定の時代や場所における文化(たとえばルネサンス)の社会学的解明を目ざす研究もあるが、歴史一般に通じる発展や動態の解明を目ざす普遍史的研究にみるべきものが多い。その代表的なものとしてはアルフレート・ウェーバーの『文化社会学としての文化史』(1935)やトレルチの『キリスト教会の社会学説』(1912)があるが、なかでも、合理化の世界史的比較を試みたマックス・ウェーバーの『世界宗教の経済倫理』(1916~19)はこの分野の金字塔というべきであろう。近時、オットー・ブルンナー、コンツェ、ヒンツェら、いわゆるドイツ社会史学派やフランスのアナール学派によって、歴史学の側からも社会学への接近がみられるが、「社会学なき歴史学」と「歴史学なき社会学」を媒介する試みとして、歴史社会学は今後ますます重要性を増していくであろう。
[徳永 恂]
『樺俊雄著『歴史社会学の構想』(1949・青也書店)』▽『M・ウェーバー著、濱島朗・徳永恂訳『ウェーバー 社会学論集』(1971・青木書店)』