改訂新版 世界大百科事典 「ロンドン大火」の意味・わかりやすい解説
ロンドン大火 (ロンドンたいか)
The Fire (of London)
ロンドンで1666年9月2日から7日にかけて(5日には事実上鎮火した)起こった大火で,シティの5分の4を焼いた。2日,土曜日の未明にプディング・レーンのパン屋から出火した火は,西はテンプル,北は家畜市場のあるスミスフィールドにまで広がり,87教区を焼き尽くした。被災家屋1万3200戸,セント・ポール大聖堂のほか89の教区教会,ギルド・ホールその他の公共施設も被災した。しかし,人命の損失は20人以下(直接焼死した者は8人)ともいわれている。復興にあたってクリストファー・レンがセント・ポール大聖堂をはじめ多くの建物の設計にあたったこと,木造建築を禁じて煉瓦,石造に変えたことなどから,この大火はロンドンの面目を一新する結果になった。現在のシティの基本的な町並みはこのときに形づくられた。
火災の原因がカトリックの陰謀だとするデマがとんだために,この事件はロンドンの反カトリック・ムードを刺激した。また,前年猖獗(しようけつ)を極めたペストが以後消滅することから,これも火災のせいとする説もあるが,スラム街がほとんど焼けなかったことからすれば,にわかには信じ難い。1677年,横倒しにすればその頂点が発火点に届くという位置に,202フィート(約62m)の記念塔Monumentが建てられ,今も観光名所の一つとなっている。
執筆者:川北 稔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報