ワーカーズ・コレクティブ(読み)わーかーずこれくてぃぶ(英語表記)workers' collective

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ワーカーズ・コレクティブ
わーかーずこれくてぃぶ
workers' collective

働く人全員が出資寄付などの形でお金を出し合い、経営に参加しながら働く協同労働のこと。労働者協同組合ともよばれ、労協ワーコレ、W.Coなどと略される。1人当り1万~20万円程度の出資や寄付で、介護・家事援助、保育・子育て支援、食品などの製造・小売り・配達、環境・リサイクル耕作放棄地を活用した農業、中小企業の継承、市民文化活動、設備管理・清掃、地域情報発信など地域密着の非営利事業を手軽に始められる特長がある。2020年(令和2)に根拠法である労働者協同組合法(令和2年法律第78号。2022年までに施行)が成立し、法的にワーカーズ・コレクティブを労働者協同組合に位置づければ、労働者派遣以外のほぼすべての事業が可能である。少子高齢化や人口減少で地域経済が疲弊するなか、全員が経営者となり、対等の立場で働き、相互扶助組織として達成感を味わうワーカーズ・コレクティブは、多様な就労機会を提供しながら地域問題を解決する手法として関心を集めている。

 ヨーロッパでは18~19世紀の産業革命直後からワーカーズ・コレクティブが普及したが、日本では、1970年代に、高齢者の失業対策として発足した労働組合系の「日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会」と、主婦層や市民運動から生まれた「ワーカーズ・コレクティブネットワークジャパン」という全国組織がある。全国組織の推計では、2020年時点で2万5000~3万人がワーカーズ・コレクティブで就労し、約500億円の事業規模とみられる。ワーカーズ・コレクティブには不況時や災害時の雇用の受け皿としての役割もあり、2011年(平成23)の東日本大震災や2020年からの新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)-19)拡大のなかで、雇用対策事業を受託するなど関心を集めた。ワーカーズ・コレクティブは収益や効率より、相互扶助、消費者・生活者視点、地域密着、ダイバーシティ(人間の多様性)などを重視する側面が強く、財政面などの経営基盤は弱かった。しかし労働者協同組合法に基づく労働者協同組合になれば、行政の許可なく簡便に設立でき、組合員の出資で財政も安定し、むやみに解雇されず、最低賃金が保障される。労働者協同組合と法的に位置付けるには、一般に3人以上の組合員全員が出資し、営利目的でないことを明確にし、法務局に登記すればよい。

[矢野 武 2021年5月21日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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