中世末期から近世にかけての日本で行われた尺八の一種。正しくは一節切尺八といい,一簡切,一節截などとも書く。竹の幹の中ほどで作り,現行の普化尺八より細くて短い。管の上方約3分の1の所に一つだけ節があるので,その名がある。指孔は前面4・背面1で,数と配置は普化尺八と同様だが,孔間比は微妙に異なる。音量は普化尺八より小さく,音域も狭い。起源については,15世紀ころにロアン(朗庵などと書かれる)なる外国人僧侶が伝来したという伝説があるのみで,よくわからないが,遅くとも14世紀ないし15世紀には行われはじめたものらしい。16世紀ころに一般化していたことは,〈尺八のひとよきりこそね(音)もよけれ,君とひとよ(一夜)はね(寝)も足らぬ〉などという小歌によっても知られる。
古くは十二律に合わせた長短各種があり,筒音により壱越切(いちこつぎり),平調切(ひようぢようぎり)などと呼び分けられたが,宗左流という芸系が興った16世紀後半以後は黄鐘切(おうしきぎり)(筒音は黄鐘≒1点イ音。管長約34cm)が標準となった。その管長が当時多用された壱越調の律音階に適したためであろう。17世紀初葉には宗左流から出た大森宗勲(1570-1625)が多くの譜書を著して宗勲流として普及し,17世紀後半にはその門流の指田一音の指田流が栄えた。また中村宗三著《糸竹初心集》(1664),村田宗清著《洞簫曲(どうしようのきよく)》(1669),著者不明《紙鳶(いかのぼり)》(1687,《糸竹大全》に収められている)の3種の入門独習書の出版が見られ,当時の一節切の流行を物語っている。それらを見ると,17世紀前半までの一節切の音楽は独奏曲(これを〈手〉という)が主体であったが,17世紀後半には流行歌(はやりうた)・踊り歌の伴奏や箏・三味線との合奏(これらを〈乱曲〉という)が盛んになったことがわかる。
しかし,流行は長くは続かず,18世紀に入るとほとんど吹かれなくなる。急速な衰微の原因は,音量,音域など性能の点で普化尺八に劣ったこと,なかんずく17世紀以後の日本音楽で支配的になった都節音階(半音を含む5音音階)の吹奏に適さなかったことに求められる。19世紀初葉にいたり,江戸の町医者神谷潤亭(1783?-?)が細々と伝承されていたこの楽器に着目し,一節切を〈小竹(こたけ)〉と改称し,古伝の曲に自作の新曲を加えて《糸竹古今集》(1818)その他多数の譜書を著してその復興に努めたが,一部の好事家の関心を集めただけで,19世紀後半以後,一節切はまったく絶えてしまった。
→尺八
執筆者:上参郷 祐康
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
5孔1節の尺八の一種。節を一つだけ含む竹管の意からこの名がある。標準管長は1尺1寸1分(約33.6センチメートル)で、普化(ふけ)尺八よりかなり短く細い。マダケの幹の中ほどを用い、節を第5孔(裏孔)と第4孔の間に置く。外面を斜めに切り落とした尺八と同じ歌口をもつが、そこに牛角を埋め込んだものは少なく、また根に近いほうを上にするところなど、普化尺八と異なる。伝来は室町時代中期と伝えられ、16~17世紀に盛行をみた。普化尺八と比べると、基本的奏法はほぼ同じだが、音量・音域が劣り、歌口・指孔が小さいため、技法がやや困難である。そのためしだいに衰微し、19世紀初期に小竹(こたけ)と改名して一時再興されたものの、同中期以後は伝承者を失った。
[月溪恒子]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…名称は標準管長(1尺8寸)に由来する。日本の音楽史上に現れた広義の尺八には,古代尺八,天吹(てんぷく),一節切(ひとよぎり)尺八などもあるが,現行するのは普化(ふけ)尺八のみであるから,以下,それを主として解説する。〈普化尺八〉は〈虚無僧尺八〉とも呼ばれるが,江戸時代にこの楽器が普化宗(禅宗の一種。…
…また尺八も輸入され普化宗(ふけしゆう)の仏徒(虚無僧)によって行われた。尺八の同類である一節切(ひとよぎり)も輸入され,このほうは一般庶民の楽器として,箏や三味線と合奏されたり,流行歌や民謡を吹くことにも用いられた。また,僧徒の遊宴で行われていた延年と称する総合芸能の中に〈越天楽歌物〉も含まれていたが,それらに基づいて北九州に筑紫流(つくしりゆう)箏曲(筑紫箏)が興った。…
※「一節切」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
米テスラと低価格EVでシェアを広げる中国大手、比亜迪(BYD)が激しいトップ争いを繰り広げている。英調査会社グローバルデータによると、2023年の世界販売台数は約978万7千台。ガソリン車などを含む...
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加