他人の不動産を侵奪する罪をいう。侵奪とは,不法領得の意思をもって,他人の不動産に関する占有を排除して自己の事実上の支配をあらたに設定することである。他人の占有する土地に無断で住宅を建てるなどの行為がこれにあたるが,単に賃借権が消滅したあとに,そのまま占拠しつづけても,あらたな占有奪取がないから本罪にはあたらない。法定刑は10年以下の懲役である(刑法235条の2)。未遂犯も処罰される(243条)。自己の不動産であっても他人の占有に属し,または,公務所の命により他人が看守するものであるときは本罪が成立する(242条)。これは,境界損壊罪とともに1960年に新設されたものである。改正前にも,窃盗罪(235条)の客体である〈財物〉に不動産が含まれるとする学説はあったが,判例・通説はこれを否定していた。不動産は,その性質上被害の回復が確実であるから,あえて刑事罰の対象とする必要はなく,民事的救済にゆだねればたりると考えられたのである。しかし,第2次大戦後,各地で土地の不法占拠事件が生じ,他方,民事訴訟による救済も十分でなかったため,ついに刑事罰の対象とされるに至ったものである。
執筆者:西田 典之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
他人の不動産を侵奪する罪で、10年以下の懲役に処せられる(刑法235条の二)。不動産、すなわち土地およびその定着物(建物など)が刑法第235条のいう「他人の財物」にあたりうるかが争われていたが、第二次世界大戦直後の混乱期に土地などを不法に占拠するケースが頻発したため、その防止策として本罪が新設された。不動産のうち、土地は地面のみならずその地上および地下の空間をも含むから、隣接地の空間に自宅の二階部分を張り出させる場合も本罪にあたる。また、「侵奪」とは、他人の不動産に対しその占有を排除して、自己または第三者の事実的支配を新たに設定することを要する。したがって、他人名義の不動産をかってに自己または第三者の名義に変更するにすぎない場合(法律上の占有を取得する場合)や、賃貸期間満了後、賃借人が所有者からの立ち退き請求を無視して引き続き居座る場合などは本罪にあたらない。
[名和鐵郎]
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…土地や家屋は移動が不可能であるから被害の回復は民事訴訟にゆだねれば足り,刑法的保護を要しないとされたのである。しかし,戦後の混乱期に不法占拠事件が相次ぎ,かつ,民事訴訟の長期化も相まって,刑法的保護の必要性が主張されたため,60年の改正で不動産侵奪罪(235条ノ2),境界毀損罪(262条ノ2)が新設された。 次に,窃取とは,他人の占有に属する物,すなわち,他人の事実的支配領域内にある物を,その意に反して奪取する行為をいう。…
※「不動産侵奪罪」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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