窃盗罪(読み)せっとうざい

精選版 日本国語大辞典 「窃盗罪」の意味・読み・例文・類語

せっとう‐ざい セッタウ‥【窃盗罪】

〘名〙 他人の財物を窃取することによって成立する罪。一〇年以下の懲役に処せられる。

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デジタル大辞泉 「窃盗罪」の意味・読み・例文・類語

せっとう‐ざい〔セツタウ‐〕【窃盗罪】

他人の財物を盗む罪。刑法第235条が禁じ、10年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「窃盗罪」の意味・わかりやすい解説

窃盗罪
せっとうざい

財産犯の一種で、「他人の財物を窃取」する罪であり、10年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられる(刑法235条)。「窃取」とは他人の財物を意思に反して奪取することであり、たとえば、空巣、万引すりなど、ひそかに奪取するのが一般であるが、ひったくり、かっぱらいのように公然と犯される場合もある(なお、ひったくりには強盗罪にあたる場合もある)。本罪は、犯罪認知件数からみると、全刑法犯の50%以上を占め、窃盗罪全体のなかでは、乗り物盗(自転車、オートバイ自動車の窃盗)が40%近くを占めている。

[名和鐵郎]

保護される法益

窃盗罪の保護法益については、本権説と占有説(所持説)の対立があり、前説では所有権その他の本権が保護されると解されるのに対して、後説では、占有、すなわち事実上の支配(所持)が保護法益であるとされる。このうち、本権説が従来の通説・判例であったが、所有と利用に関する財産関係の複雑化・多様化などを反映して、占有説を支持する者が増えてきている。日本では第二次世界大戦後の混乱期を契機として、判例も占有説にたち、本権に基づかない占有(禁令に違反する占有、所有者の意思に反する占有、所有権の帰属が明らかでない占有など)も保護されうるものと解している。したがって、占有説によれば、たとえば真の所有者が窃盗犯人から盗品を取り返すような場合でも、窃盗罪が成立する(本罪の構成要件にあたる)が、自救行為自力救済)にあたる場合に限り違法性が阻却されうる。これに対し本権説では、本権に基づかない占有は保護法益を欠くから、そもそも窃盗罪は成立しない、すなわち、窃盗罪の構成要件にもあたらないことになる。ただ、今日では、両説の間に歩み寄りがみられ、保護の対象となる占有は事実上の支配(所持)自体ではなく、「平穏な占有」、「合理的理由のある占有」であれば足りる、といった考え方が有力に主張されている。

[名和鐵郎]

エネルギーや不動産の窃盗

次に、本罪の客体は、他人の「財物」、さらにいえば他人の占有する他人の財物である。ただし例外的に、自分の財物でも他人の占有に属し、または公務所の命令により他人が看守している場合には、本罪の客体となる(刑法242条)。この財物には、有体物のほか、電気も含まれる(同法245条)。ただ、電気以外のエネルギー(冷暖気空気圧など)が財物にあたりうるかに関して、有体性説と管理可能性説との対立があり、前説ではこれを否定するが、後説の立場からは、エネルギーもメーターなどにより物理的に管理可能であれば、財物に含まれうると解している。ただ、債権、情報など権利や利益が財物に含まれないことは、今日ではほとんど争いがない。なお、本罪の客体である「財物」に不動産(土地や建物など)が含まれうるかが、かつて争われたが、不動産窃盗に相当する不動産侵奪罪(同法235条の2)が1960年(昭和35)の刑法一部改正で新設されることにより、立法的に決着がつけられた(ただ、不動産に対する強盗については、刑法236条1項の財物にあたるか、同条2項の利益にあたるかの争いは残る)。

[名和鐵郎]

不法領得の意思

窃盗罪は、他人の占有に属する他人の財物を、被害者の意思に反して領得する罪であるから、通説、判例によれば、客観的に財物に対する他人の占有を侵害するとともに、主観的にも、故意のほか、「不法領得の意思」を要するものと一般に解されている。ここに不法領得の意思とは、判例によれば、「権利者を排して他人の物を自己の物としてその経済的用法に従い利用、処分する意思」とされている。このような定義によれば、不法領得の意思は、(1)排除の意思と(2)利用処分の意思によって構成されることになる。そこで、従来、いわゆる「使用窃盗」、すなわち、他人の財物を無断で一時的に使用するにすぎない場合は(1)の排除の意思を欠くため、また、毀棄(きき)・隠匿の目的、すなわち、壊したり、隠したりする目的の場合は、(2)の経済的用法に従い利用、処分する意思を欠くため、これらの意思で占有を侵害する場合は不可罰であるとされる。ただ、今日の判例や学説のうちの必要説(本罪の成立に、不法領得の意思を必要とする説)においても、一般的に、不法領得の意思の要件を緩和している(なお、不要説も有力になっている)。すなわち、毀棄・隠匿の目的の場合には、毀棄(毀棄にあたる隠匿を含む)が一種の処分であるとか、使用窃盗の目的についても、自動車を長時間・長距離乗り回した場合には、「一時的」ではあっても、物の利用を完全に排除するものであるとして、不法領得の意思を認めて、本罪を肯定している。

[名和鐵郎]

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改訂新版 世界大百科事典 「窃盗罪」の意味・わかりやすい解説

窃盗罪 (せっとうざい)

他人の財物を窃取する罪(刑法235条)。窃盗罪は,財産犯とくに利欲犯,困窮犯の典型的なものであり,その発生件数も刑法犯のなかではつねにトップにあり,業務上過失致死傷罪(211条)を除く刑法犯の年間認知件数の実に80%を超える割合を示している。

 窃盗罪の対象は,他人の財物であるが,自己の財物でも他人の占有に属し,または公務所の命により他人の看守する物であるときは他人の財物とみなされる(242条)。入質物や差押えを受けた物などがこれにあたる。財物とは管理可能性を有する限り有体物(民法85条参照)に限られないとするのが通説・判例である。旧刑法下において生じた電気窃盗事件をめぐり,電気は物かが争われたが,判例は管理可能性説によって電気の財物性を認めた。1907年の現行刑法の制定にあたり,この点の疑義を払拭するために電気は財物とみなすという規定(刑法245条)が設けられたが,通説・判例の見地からは注意規定にすぎないことになる。なお,改正刑法草案335条は,この〈みなし規定〉の範囲を熱その他のエネルギーにまで拡張している。もっとも,判例上,管理可能性説によって財物性が認められたのは電気のみであり,債権や情報,ノウ・ハウ等の無形の利益までも財物に含めうるとする見解は少数説にとどまっている。不動産も財物には含まれないと解されてきた。土地や家屋は移動が不可能であるから被害の回復は民事訴訟にゆだねれば足り,刑法的保護を要しないとされたのである。しかし,戦後の混乱期に不法占拠事件が相次ぎ,かつ,民事訴訟の長期化も相まって,刑法的保護の必要性が主張されたため,60年の改正で不動産侵奪罪(235条ノ2),境界毀損罪(262条ノ2)が新設された。

 次に,窃取とは,他人の占有に属する物,すなわち,他人の事実的支配領域内にある物を,その意に反して奪取する行為をいう。委託によって自己の占有に属する物を領得する行為は横領罪(252,253条),他人の占有を離れた物を領得する行為は占有離脱物横領罪(254条)を構成し,窃盗罪とは区別される。

 窃盗罪は未遂も罰せられるが(243条),その実行の着手時期は,財物に近づいて物色を始めたとき(物色説)とされている。既遂時期は目的物を自己の事実上の支配の下に置いたときである。例えば,目的物をふろしきで包んで搬出可能な状態にしたり,自分のポケットの中に入れれば,いまだ逃亡しない段階でも窃盗は既遂である。

 なお,刑法242条は,他人の占有に属する自己の財物についても窃盗罪が成立するとしているが,例えば,泥棒の占有に属する自己の物をとりかえすような行為も窃盗罪にあたるかが問題となる。財物の占有自体を保護法益とし,この場合も窃盗罪が成立すると解するのが占有説,所有権その他の本権が保護法益であり,このような本権による裏づけのない占有は保護されないと解するのが本権説である。戦前の判例は明らかに本権説の立場をとっていたが,戦後は,刑法における財産犯の規定は,財物に対する事実上の所持を保護するものであるから,正当な権利を有しない者の所持・占有もなお保護されるとして占有説に移行している。このような判例の変化に対応して学説上も〈平穏占有説〉が有力となっている。その趣旨は,占有の開始において平穏な占有を保護の対象とするものであり,泥棒の占有などは除外されることになる。

 最後に,窃盗罪が成立するためには,他人の占有に属する財物の奪取という客観面の認識(故意)をこえて,〈不法領得の意思〉を必要とするのが通説・判例である。判例によれば,その内容は〈権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い利用もしくは処分する意思〉と定義されている。この定義の前半部分は,一時的な無断使用(いわゆる,使用窃盗)を窃盗から除外して不可罰とする目的をもち,後半部分は,器物毀棄(261条)その他の目的で財物を奪取する場合を窃盗罪と区別する目的をもつ。したがって,毀棄目的や復讐の目的で財物を奪取し,これを毀棄・隠匿する行為は,判例上,窃盗にあたらないと解されている。他方,使用窃盗については,数時間の自動車の無断使用行為,会社の秘密を漏示する目的で機密資料を数時間外に持ち出し,コピー後もとの場所に戻しておいた行為等についても不法領得の意思ありとして窃盗罪の成立を認める判例が現れており,この傾向は今後もますます強まるものと考えられる。
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百科事典マイペディア 「窃盗罪」の意味・わかりやすい解説

窃盗罪【せっとうざい】

他人の財物を窃取する罪で,刑は10年以下の懲役(刑法235条)。未遂も処罰。自己の物でも他人が適法に占有する物(質物など)や公務所の命により他人が看守する物は他人の物とみなされる。自己の占有する他人の物であれば横領罪となる。窃取とは他人の所持を侵し,自己の所持を設定することである。故意のほかに不法領得の意思を必要とするのが通説。近親間の相盗は刑が免除され,その他の親族間の相盗は親告罪となる(刑法244条)。2006年4月の刑法改正では,窃盗罪に50万円以下の罰金刑が新設された。なお他人の不動産を侵奪する行為は不動産侵奪罪として窃盗罪と同様に処罰される。
→関連項目破廉恥罪

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「窃盗罪」の意味・わかりやすい解説

窃盗罪
せっとうざい
Diebstahl

不法領得の意思で他人の財物を窃取することによって成立する犯罪をいう (刑法 235) 。手段が単純な占有奪取である点で強取,喝取,騙取を手段とする強盗罪恐喝罪詐欺罪などと区別される。窃盗罪は目的物を物色するときに着手が認められ,その物の支配を自己または第三者のもとに設定したとき既遂となる。本罪は不法領得の意思を必要とするから,単に毀棄,隠匿の目的で占有を奪っても窃盗罪とはならない。また使用窃盗も領得の意思を欠く点で罪とはならない。ただし,返還の意思があっても使用が長時間にわたったり物の価値を減じさせるような場合には窃盗罪が成立する。

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