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医療保険 いりょうほけんhealth insurance

翻訳|health insurance

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

医療保険
いりょうほけん
health insurance

疾病や負傷などに際し,被保険者医療費などを保障する保険社会保険としては,1883年ドイツのオットー・フォン・ビスマルクが「飴と鞭」の社会政策の一環で創設した疾病保険に始まる。日本では工場や鉱山の労働者を対象とした 1922年の健康保険法が最初で,同法の定める管掌健康保険が今日の医療保険の中心をなしている。1938年に国民健康保険法が制定され,1959年に全面改正された新国民健康保険法が施行されたことで,1961年には国民皆保険がほぼ達成された。初期の健康保険は貧困化を防ぐための所得保障の性格が強かったが,しだいに早期回復,予防や健康増進なども重視されるようになった。また少子高齢化(→高齢化社会)への対応として,2008年から後期高齢者医療制度が導入された。アメリカ合衆国では,1965年に創設された高齢者対象のメディケア,低所得者対象のメディケイドにかぎられていたが,2010年に公的医療保険の拡充を目指す医療保険制度改革法 PPACA(オバマケア)が成立,2013年施行された。
日本の医療保険は公的保険が主であるが,それを補填するものとして,民間企業による私的な医療保険も販売されている。1974年にアメリカンファミリー生命保険会社のみを対象とした癌保険を,1976年に日本団体生命保険(→アクサ生命保険)が医療保険の販売を開始した。かつて日本では,医療保険は「第3分野保険」として外資の保険会社のみが販売を許可されていたが,2001年以降国内の保険会社も参入した。原則として入院や手術による医療費が保障の対象となる。アメリカでは,会員制医療組織の HMOや PPO; preferred provider organizationなどが,毎月定額の保険料を支払う被保険者に対し,少額の追加の自己負担のみで医療を提供するという仕組みが普及している。

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世界大百科事典 第2版の解説

いりょうほけん【医療保険】

医療または医療費を加入者(被保険者)またはその家族(被扶養者)に給付することを目的とする保険制度。私営保険として保険会社や協同組合等によって運営されることもあるが,これは社会保障としての医療保障が欠けている場合,あるいは不十分な場合等に,医療保障を補完するものとして存在する場合が多く,私保険であるから任意加入制であり,主として医療に要した費用の塡補(てんぽ)を行う制度で,一般に民間健康保険などとよばれている。

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大辞林 第三版の解説

いりょうほけん【医療保険】

公的な医療保険制度の補完を目的とする保険。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

医療保険
いりょうほけん

一般的には、傷病や分娩(ぶんべん)をおもな保険事故として、それに伴う治療費の支払いや収入の減少などによる家計の経済的損失を補填(ほてん)するため、医療給付や休業手当などの保険給付を行う社会保険をいう。この公的医療保険を補完するものとして、民間の生命保険会社の医療保険や損害保険会社による医療費用保険なども一定の普及をみせているが、以下では社会保険としての医療保険の概要を述べる。[山崎泰彦]

沿革と近年の制度改革

世界最初の医療保険は、ドイツにおいて1883年の疾病保険法によって導入された。その後ヨーロッパ各国がこれに続き、1911年にはイギリスで国民保険法が制定された。日本では、1922年(大正11)に工場労働者などを対象とする健康保険法(健保法)、1938年(昭和13)には、農民などの自営業者を対象として、任意設立・任意加入・組合方式の国民健康保険法(国保法)が制定され、1958年の新しい国保法により全市町村に国保の実施が義務づけられたことにより、1961年4月に国民皆保険が実現した。高度経済成長期には、健康保険(健保)および国保ともに自己負担の軽減などの給付改善を行い、1973年には老人福祉法改正により老人医療費の無料化までも実施した。しかし、1980年代以降は少子高齢化社会に対応した制度の見直し期に入り、老人保健法や退職者医療制度の制定・見直し等を経て、2008年(平成20)に新たな高齢者医療制度が創設され、2018年には国保の財政運営が都道府県単位化されることになった。[山崎泰彦]

制度類型

国際的にみると医療保障制度の体系は、社会保険方式(ドイツ、フランス、アメリカなど)と、租税負担による保健サービス方式(イギリス、スウェーデンなど)に分かれる。社会保険方式の国についてみると、フランスでは、制度が職域ごとに分立しているが、99%の国民が医療保険に加入し事実上全国民に医療保険が適用されている。ドイツでも、強制適用でない高所得者、自営業者、公務員等についても民間医療保険への加入が義務づけられており、事実上の皆保険が実現している。アメリカでは、公的な制度は、65歳以上の高齢者と障害者などを対象とする医療保険であるメディケアと低所得者を対象にした医療扶助であるメディケイドに限られる。一般国民の多くは、雇用主を通じて民間の医療保険に加入しているが、いかなる医療保険の適用も受けていない無保険者が約4500万人(人口の約15%、2013年)に達し社会問題になっている。[山崎泰彦]

日本の医療保険の種類

日本の医療保険は、職域の雇用労働者を対象にした被用者保険と、自営業者などの地域の一般住民を対象にした国民健康保険に分かれ、さらに75歳以上の高齢者と65歳以上75歳未満の一定程度の障害の状態にある者を対象とする後期高齢者医療制度があり、全国民にこれらの制度への加入を義務づける国民皆保険体制となっている。被用者保険は、健康保険、船員保険、国家公務員共済組合、地方公務員共済組合、私立学校教職員共済に分かれている。このうち、健康保険は、全国健康保険協会管掌健康保険(協会健保)と組合管掌健康保険(組合健保、健康保険組合)に分かれ、組合健保については大企業をおもな母体として約1419(2014)の組合がある。国民健康保険は、市町村国民健康保険(市町村国保。2018年からは都道府県単位の財政運営になり、都道府県と市町村が共同運営)と国民健康保険組合(国保組合)に分かれる。市町村国保は市町村ごとに設立され、国保組合には同種の事業・業務の従事者で構成される全国で164(2014)の組合がある。後期高齢者医療制度は、各都道府県ごとに全市町村が加入する広域連合が保険者である。
 法定の医療給付の自己負担割合は統一され、年齢別に、義務教育就学後70歳未満3割、義務教育就学前2割、70歳以上75歳未満2割(ただし、経過措置として2014年3月31日以前に70歳になった者については従来どおり1割負担。現役並みの所得者3割)、75歳以上1割(現役並み所得者3割)とされている。さらに自己負担額が一定額を超えた場合に超過額を払い戻す高額療養費支給制度が各制度共通に設けられている。制度間で差異があるのは現金給付で、とくに市町村国保が休業時の傷病手当金や出産手当金の給付を実施していないのが、被用者保険との大きな違いである。
 給付財源は保険料と国庫負担などの租税財源によってまかなわれる。保険料は、被用者保険では報酬比例制であるが、国保では応能負担と応益負担を組み合わせている。国庫負担は制度の財政力に応じて配分されており、保険料のみで財政的に自立した運営が可能な組合健保と共済組合には、組合健保の一部の財政窮迫組合を除いて国庫負担は行われないが、協会健保には16.4%の国庫負担、国保には5割強の公費(国・地方自治体)負担が行われている。
 後期高齢者医療制度の財源は、高齢者の保険料1割、公費約5割、各医療保険制度からの後期高齢者支援金が約5割となっている。[山崎泰彦]
『日本社会保障法学会編『医療保障法・介護保障法』(2001・法律文化社) ▽山崎泰彦・尾形裕也編著『医療制度改革と保険者機能』(2003・東洋経済新報社) ▽遠藤久夫・池上直己編著『医療保険・診療報酬制度』(2005・勁草書房) ▽田中滋・二木立編著『医療制度改革の国際比較』(2007・勁草書房) ▽栄畑潤著『医療保険の構造改革――平成18年改革の軌跡とポイント』(2007・法研) ▽二木立著『医療改革――危機から希望へ』(2007・勁草書房) ▽吉原健二・和田勝著『日本医療保険制度史』増補改訂版(2008・東洋経済新報社) ▽二木立著『医療改革と財源選択』(2009・勁草書房) ▽島崎謙治著『日本の医療――制度と政策』(2011・東京大学出版会) ▽『健康保険法総覧 平成23年7月版』(2011・社会保険研究所) ▽日本社会保障法学会編『新・講座社会保障法1 これからの医療と年金』(2012・法律文化社) ▽真野俊樹著『入門 医療政策』(2012・中央公論新社) ▽『健康保険のてびき』(2013・社会保険研究所) ▽松田晋哉著『医療のなにが問題なのか――超高齢社会日本の医療モデル』(2013・勁草書房) ▽池上直己著『医療・介護問題を読み解く』(2014・日本経済新聞出版社) ▽岩渕豊著『日本の医療――その仕組みと新たな展開』(2015・中央法規出版) ▽二木立著『地域包括ケアと地域医療連携』(2015・勁草書房) ▽島崎謙治著『医療政策を問いなおす――国民皆保険の将来』(2015・ちくま書房) ▽これからの医療保険制度の在り方を考える研究会編著『持続可能な医療保険制度の構築に向けて――平成27年改革の軌跡とポイント』(2016・第一法規出版) ▽健康保険組合連合会編『図表で見る医療保障』各年版(ぎょうせい) ▽厚生労働統計協会編・刊『保険と年金の動向』各年版』

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世界大百科事典内の医療保険の言及

【医療】より

…その最大の条件は量的な変化である。健康権を保障するため,行政は,国民が医療を受ける場合の困難を減少するよう,医療保険や医療保障制度を導入したり,医療機関の増設や医療従事者の増員などを進めるが,この結果医療需要は急速に増大する。また,医療費が公的に支払われるようになることで技術開発にも弾みがつき,いわゆる医療技術の高度化が急速に進行した。…

【社会保険】より

…社会保険が社会保障において中心的役割を果たしうるのはこれらの特色を備えていることによる。社会保険の種類は,疾病,出産を保険事故とする医療(疾病)保険,老齢,障害,生計中心者の死亡(遺族)についての年金保険,失業のための失業保険,業務(労働)災害と職業病を保険事故とする労災(災害)保険の4部門に大別できる。失業保険と労災保険は通常被用者だけを対象とするのに対して,医療保険と年金保険は全国民が対象となりうる。…

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