歯科医療および保健指導をつかさどる医師。歯科医療が医療の一部門として一般医師によって行われている国もあるが、歯科医療は理工学的な知識と特殊な技術を必要とする点で、ほかの医療部門と著しく異なっているため、日本を含む多くの国では、歯科医療は一般医師とは別に歯科医師によって行われる。また、歯科医師は医師法とは別に歯科医師法によって規制される。歯科医師の歴史は古く、紀元前500年ごろのエジプトには、すでに歯科専門医が存在していた。ヨーロッパではギリシア医術が基礎となり、16世紀から18世紀にかけて近世の歯科医学が勃興(ぼっこう)した。一方、アメリカでは、1804年、ボルティモアに初めて歯科医学校がつくられ、歯科医師の養成が始められた。
日本では、江戸時代になると、口中医入れ歯師(医官名)、歯抜き師(民間名)などが存在し、歯科治療に従事していた。やがて、明治時代になると、西洋歯科医術が導入されて、アメリカ人歯科医師エリオットSt. George Eliott(1838―1915?)に師事した小幡英之助(おばたえいのすけ)は、1875年(明治8)、わが国最初の歯科医師となり歯科医師免許の第1号を得た。1888年には東京歯科専門医学校(日本最初の歯科医育成機関で、翌89年末に閉校)、90年には高山歯科医学院(現東京歯科大学)が開設され、本格的な歯科医師の養成が始まった。
歯科医師法は1948年(昭和23)に施行され、以来数次にわたって改正され現在に至っている。歯科医師になるには、高等学校卒業後、文部科学大臣の認定した6年制の歯科大学か、大学歯学部を卒業後、厚生労働大臣の行う歯科医師国家試験に合格し、免許を受けなければならない。大学での6年の教育のうち、初めの約2年間は主として文科系から理科系にわたる諸科目を履修して教養を広め、残りの約4年間では歯科基礎医学や臨床歯科などの専門教育を受ける。前述の六年制大学の卒業者のほか、歯科医師国家試験予備試験に合格したのち1年以上の診療および口腔(こうくう)衛生に関する実地修練を経た者、外国の歯科医学校を卒業し、または外国で歯科医師免許を得た者で厚生労働大臣が適当と認定した者も歯科医師国家試験を受けることができる。なお、未成年者、成年被後見人、被保佐人は歯科医師の免許を受けることができない。また、心身の障害により歯科医師の業務を適正に行うことができない者、麻薬・大麻・アヘンの中毒者、罰金刑以上の刑を受けたことがある者、医事に関し犯罪または不正行為のあった者は歯科医師の免許を受けることができないことがある。
日本には、2004年(平成16)末現在、約9万5000人の歯科医師がおり、大半の歯科医師が臨床家として自営の歯科診療所、共同診療所、事業所診療所、病院歯科にて歯科医療に従事している。そのほか、大学で教育、研究、診療に従事している者、公務員として行政や保健の指導に携わっている者もある。なお、歯科医術の進歩発達のため、歯学教育・研究の整備、歯科医師の研修などを行う全国組織の団体として日本歯科医師会がある。
[市丸展子]
2019年(令和1)に「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律」(令和1年法律第37号)が成立し、成年被後見人等を資格・職種・業務等から一律に排除する規定等(欠格条項)を設けている各制度が見直された。歯科医師法も改正され、欠格条項から成年被後見人、被保佐人が削除された。
2020年末時点で、日本の歯科医師数は10万7443人となっている。
[編集部 2022年4月19日]
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…ヨーロッパの中には一般医科の教育を受けて卒業した後,口腔専門科として専攻させる制度をとっているところもあるが,多くの国では日本と同様に医科とは分離して扱っている。 歯科が日本で学問として独立するようになったのは,1883年(明治16)に医術開業試験規則の中で歯科の試験科目が認められるようになってからと考えられているが,89年に高山歯科医学院(現,東京歯科大学)が設立され,さらに1906年に歯科医師法が制定されてからはっきりした形をとるようになった。 歯科の学問体系は,基礎歯学と臨床歯学に大別され,さらにそれに関連する医学が加わっている。…
※「歯科医師」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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