中毒性肝障害(読み)ちゅうどくせいかんしょうがい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「中毒性肝障害」の意味・わかりやすい解説

中毒性肝障害
ちゅうどくせいかんしょうがい

薬物そのものが肝細胞毒として働く結果発生する肝障害をいう。四塩化炭素黄リン亜ヒ酸など動物実験には使用されても医薬品としての使用は許可されないので、現在ではほとんどないと考えてよい。しかし、抗腫瘍(しゅよう)剤などで、量が多くなれば肝障害をおこすものがいくらかはある。動物の種類によって障害の受け方に差があることは事実であるが、中毒性肝障害は、特定の動物を用いた場合、薬物の投与量と肝障害の程度が並行し、障害の程度や障害の受け方に個体差がないことが原則である。しかし投与された薬剤そのものが作用する以外に、体内とくに肝臓代謝されて初めて肝毒性を発揮する場合には個体差も現れ、中毒性肝障害の判定がむずかしくなる場合がある。抗結核薬ヒドラジドなどは、その例と考えられる。

 次に、薬物には、肝臓の中に蓄積することによって肝障害を引き起こすものがある。このような蓄積性肝障害は、ある意味では中毒性肝障害と考えてもよい。投与されてから長年月を経て肝障害をおこすトロトラスト、長期間にわたり投与されてから肝障害をおこしてくるポリビニルピロリドン(PVP)やジエチルアミノエトキシヘキセストロール(DH)剤などがそれである。トロトラストは第二次世界大戦のころ血管造影剤として使用され、数十年を経て発癌(はつがん)物質であることがわかり、胆管癌血管肉腫、肝細胞癌となる例をみる。一方、PVPは血清タンパク、とくにアルブミン代用として使われた時代があり、肝臓の間質に蓄積して門脈圧亢進(こうしん)症や肝硬変をおこし問題となった。DH剤は冠不全の治療薬として使われていたが、肝臓や骨髄に蓄積されて脂質代謝に異常を引き起こし、リン脂質肝や肝硬変をおこすことが明らかとなり、使用が禁止された。

 薬物による肝障害で多いのはアレルギー性肝障害で、投与された薬がアレルギーのある人にだけ肝障害をおこすものである。薬物は低分子であり、それ自体が直接アレルギーをおこす原因物質とはなりえず、生体内で特別のタンパク質と結合して初めてアレルギーをおこすようになる。アレルギー性肝障害は個体差が大きく、薬用量とも関係がなく、障害をおこす時期もいろいろで、動物実験もできない。抗生物質、抗神経薬、解熱鎮痛薬、消炎剤など非常に種類が多い。アレルギーによる肝障害とともに、薬物の代謝が多くのヒトと異なることによる特異体質に薬物性肝障害がある。薬物服用前には予測が困難であるとともに、アレルギー症状がなく、肝機能検査による発見が必要である。起因薬物としては、糖尿病薬(トログタゾン)、抗結核薬(INH)、抗癌(こうがん)薬などがある。

 薬物性肝障害は肝臓に現れる変化からみると(1)肝細胞障害型(肝炎型)、(2)胆汁うっ滞型、(3)混合型、(4)腫瘍形成型、(5)血管障害型、(6)蓄積型に分けることができる。このうち頻度の多いのは(1)(2)(3)であるが、腫瘍形成型の薬剤にはトロトラスト、経口避妊薬、タンパク同化ホルモンがある。経口避妊薬とタンパク同化ホルモンは、いずれも肝細胞腺腫(せんしゅ)という良性腫瘍を発生させることが知られている。血管障害型の薬剤としては経口避妊薬、抗腫瘍剤、免疫抑制剤がある。肝静脈閉塞(へいそく)症や血栓性の肝静脈閉塞によるバッド‐キアリBudd-Chiari症候群となり、肝動脈や門脈から流れ込んだ血液が、肝静脈の閉塞によって肝臓から流出できなくなり、肝臓の腫大、腹水、背部痛、黄疸(おうだん)などの症状がみられる。

[太田康幸・恩地森一]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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