日本大百科全書(ニッポニカ) 「中沢新一」の意味・わかりやすい解説
中沢新一
なかざわしんいち
(1950― )
宗教学者、思想家。山梨県に生まれる。父は在野の民俗学者中沢厚(あつし)(1914―1982)。歴史学者の網野善彦は叔父。1977年(昭和52)東京大学大学院人文科学研究科宗教学専攻博士課程修了。同年、初の翻訳『サーカス――アクロバットと動物芸の記号論』Circus and culture(ポール・ブーイサックPaul Bouissac(1934― )著、原著1976)刊行。1979年ネパールに渡り、チベット仏教僧に弟子入りして密教の修行を積む。1980年の帰国後、東京外国語大学アジア・アフリカ言語研究所助手となる。1981年密教修行についての著書『虹の階梯』(ラマ・ケツン・サンポLama Khetsun Sangpo(1921―2009)との共著)、1983年『チベットのモーツァルト』を刊行。これらの著書は人気をよび、浅田彰、四方田犬彦(よもたいぬひこ)(1953― )、伊藤俊治(いとうとしはる)(1953― )、松浦寿輝(まつうらひさき)らとともに、「ニュー・アカデミズム」ブーム、通称「ニュー・アカ」ブームの寵児(ちょうじ)となる。
その後も、チベット、インド、中国などへのフィールドワークを重ねつつ、宗教学と民俗学、歴史学、フランス現代思想などを接合する形で独自の思想を展開していく。またフランスの思想家ジュリア・クリステバの紹介者としても知られる。1993年(平成5)より、中央大学総合政策学部教授。2011年(平成23)に明治大学「野生の科学研究所」所長に就任。
中沢の関心領域はきわめて広く、『南方熊楠(みなかたくまぐす)コレクション』(1991~1992)の編纂(へんさん)および解説では南方民俗学を、1994年の『はじまりのレーニン』ではレーニンを、1997年の『ポケットの中の野生』ではテレビゲームを、2001年の『フィロソフィア・ヤポニカ』では田辺元(たなべはじめ)をテーマにしている。
一方、1995年に起きた地下鉄サリン事件を契機にオウム真理教が批判されると、同教団の擁護者と目されていた中沢も世論の厳しい批判にさらされることとなった。
2002年『緑の資本論』を刊行。イスラム教をヒントに、アングロ・サクソン流のグローバリズムではない資本制システムの可能性を提示する。同年から中央大学における宗教学の講義録である『カイエ・ソバージュ』の刊行を開始。2003年、河合隼雄(かわいはやお)に日本仏教を講義する形での対談『仏教が好き!』を刊行。また同年刊行の『精霊の王』では、人類の意識の根底にある神話的思考、野生の思考について論じた。
[永江 朗 2016年9月16日]
『中沢新一著『東方的』(1991・せりか書房/講談社学術文庫)』▽『中沢新一著『森のバロック』(1992・せりか書房/講談社学術文庫)』▽『『はじまりのレーニン』(1994・岩波書店/岩波現代文庫)』▽『『ポケットの中の野生』(1997・岩波書店/新潮文庫)』▽『中沢新一著『女は存在しない』(1999・せりか書房)』▽『『フィロソフィア・ヤポニカ』(2001・集英社/講談社学術文庫)』▽『『緑の資本論』(2002・集英社)』▽『『カイエ・ソバージュ』1~5(2002~2004・講談社)』▽『『精霊の王』(2003・講談社)』▽『『チベットのモーツァルト』(講談社学術文庫)』▽『中沢新一著『悪党的思考』(平凡社ライブラリー)』▽『中沢新一著『哲学の東北』(幻冬舎文庫)』▽『中沢新一責任編集『南方熊楠コレクション』1~5(河出文庫)』▽『中沢新一、ラマ・ケツン・サンポ著『改稿虹の階梯』(中公文庫)』