日本大百科全書(ニッポニカ) 「フィールドワーク」の意味・わかりやすい解説
フィールドワーク
ふぃーるどわーく
field work
文化の異なる社会に長期間住み込み、人々とその文化を現場の事態に即して調査研究すること。野外調査と訳される。人類学者モルガン(1818―81)のイロコイ人調査以後、19世紀末期から現地調査が行われるようになったが、トロブリアンド諸島での調査成果をマリノフスキーが『西太平洋の遠洋航海者』(1922)で発表して以来、先住民の視点に添った文化の全体的理解を目ざす現代人類学にとって、フィールドワークは必須(ひっす)の方法となった。民族誌として結実するこの方法は、参与観察を特徴とする。原地語を学び、人々の活動場面(狩猟、農耕、宗教儀礼、争議、祝祭など)に参加し、主体的参与経験と観察を同時に行う。地位や役割の違う人々から、活動の意味、説明、解釈を聴く作業も重要である。
調査者はまず異人として現地に登場することになるが、そこから試行錯誤しつつ人々とどのような関係をつくりあげるかが調査の方向と過程を左右する。村長などの許可を得、近くに住んでその社会の作法とタブーに注意しながら人々と多く接触し、なんらかの形で人々に受け入れられること(ラポールの成立)が調査の第一歩となる。その地に暮らし、人々との感情に彩られた交流がこうして生じるが、理想とされる参与観察的態度の実際は一様ではない。調査者の異人性、年齢、性別、人数による局面への影響などの問題とともに、人類学的理解の発生するこうした交流の性質についてさらに検討を要しよう。エスノセントリズム(自民族中心主義)を克服し、親族、経済、政治組織、呪術(じゅじゅつ)信仰、世界観など、社会と文化の全体的理解を目ざす人類学的認識は、フィールドワークから生み出されるが、その調査過程を実証主義的方法を超えうる現象学的了解過程としてとらえる試みがある。異文化理解の実践というフィールドワークの営為は、こうして人間科学認識論にとって重要なばかりでなく、現代世界に現れた人間精神の営為として、思想史的にも注目されよう。
[宮坂敬造]