日本大百科全書(ニッポニカ) 「久能寺経」の意味・わかりやすい解説
久能寺経
くのうじきょう
平安時代に制作された装飾経の代表作。『法華経(ほけきょう)』8巻(28品(ほん))に開結(かいけつ)の二経を加えた30巻を1人1巻ずつ分担して書写したものを一品経(いっぽんきょう)とよぶ。そのもっとも古くかつ比較的完全な形で残っているのが久能寺経である。もと静岡県の久能寺(現在は廃絶して鉄舟寺(てっしゅうじ)に改名)に伝わったので、この名がある。鉄舟寺(静岡市)に19巻(国宝)が現存、ほかは東京国立博物館などに分蔵される。各巻の巻末に結縁(けちえん)者名が記されており、1141年(永治1)鳥羽院(とばいん)、待賢門院(たいけんもんいん)、美福門院(びふくもんいん)らを中心とする宮廷の人々によって供養されたものと考えられる。大和絵(やまとえ)の描かれた見返し、金銀の切箔(きりはく)をまいた料紙は、王朝貴族の美意識を反映する華麗なものである。
[久保木彰一]