葦手(読み)あしで

日本大百科全書(ニッポニカ)「葦手」の解説

葦手
あしで

草がな、平仮名、片仮名とともに、平安時代に生まれた仮名書体の一つ。『天徳(てんとく)四年内裏歌合(だいりうたあわせ)』(960)をはじめ、『源氏物語』『栄花物語』などにそのことばがみられ、一条兼良(いちじょうかねら)(1402―1482)以来、この葦手について諸説が出されてきた。だが、『うつほ物語』『新猿楽記(しんさるがくき)』では一つの書体としてあげられており、歌意を表す絵画化された遊戯的な書体と解される。その遺品として、11世紀後半の伝藤原公任(ふじわらのきんとう)筆『葦手歌切(あしでうたぎれ)』(徳川黎明会(とくがわれいめいかい)蔵ほか)があり、12世紀の『本願寺本三十六人家集』(元真集)や『平家納経』(『厳王品(ごんのうほん)』表紙ほか)では料紙の下絵モチーフとして用いられている。また鎌倉時代以降は、調度品、衣装、飾太刀(かざりたち)の装飾にも使用された。

[久保木彰一]

『小松茂美著『かな』(岩波新書)』

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精選版 日本国語大辞典「葦手」の解説

あし‐で【葦手】

〘名〙
① 平安時代に行なわれた書体の一つ。葦、水流、鳥、石など水辺の光景の中に、文字を絵画化し、歌などを散らし書きにして書きまぜたもの。主として葦の群生したさまに模したものについていうが、水流のさまに模した水手(みずて)などを含めてもいう。あしでがき。
※天徳四年内裏歌合(960)「左の歌の洲浜のおほひに、あしでを繍(ぬひもの)にしたる歌」
※栄花(1028‐92頃)根合「池のかがり火隙(ひま)なきに、白き鳥どもの足高にて立てまつるも、あしでの心地してをかし」
② ①を下絵として描くこと。また、その描いた紙。歌や手紙を書き記すのに用いた。
※康和四年内裏艷書歌合(1102)「紅の七重がさねに、下絵にあしで書きて」

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百科事典マイペディア「葦手」の解説

葦手【あしで】

芦手とも書く。平安末期ころ用いられた遊戯的な絵文字,またはそれをまじえた絵模様。草仮名をアシの葉になぞらえ,和歌などを書き流したものと,文字を水辺の風景の中に散らした〈葦手絵〉とがあり,後者は色紙の下絵や蒔絵(まきえ)の意匠として後世まで用いられた。
→関連項目文字絵

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世界大百科事典 第2版「葦手」の解説

あしで【葦手】

水辺に生えるアシになぞらえて書いた遊戯的文字で,かな文字が多い。それは水辺の景色の中に絵画的に隠し文字のようにアシ,流水,水鳥,岩などの一部分を文字化して書き加えたもので,藤原時代に行われ,葦手を画面に散らして絵模様を構成するものを葦手絵という。葦手絵は後世に至るまで,色紙の下絵や蒔絵の意匠などとして,広く流布されるようになった。葦手の語は《宇津保物語》《源氏物語》《栄華物語》などに見られるが,《宇津保物語》では,男手,女手,片仮名に続いて,葦手で和歌の書巻を書いたことが記されているから,書体の一種として扱われている。

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