日本大百科全書(ニッポニカ) 「乾パン」の意味・わかりやすい解説
乾パン
かんぱん
日本標準商品分類では菓子類のなかの焼き菓子であって、ビスケット類の一種である。小麦粉の一部にイーストを加えて仲種(なかだね)とし、長時間発酵させたのち、残りの粉を入れて本捏生地(ほんこねきじ)に仕込み、さらに短時間発酵させ、カッターで成型したのち、温度、湿度の高い焙炉(ほいろ)にて膨らませ焙焼(ばいしょう)する。四訂日本食品標準成分表では乾パンをパン類に入れ、本捏生地に砂糖6.8%、ショートニング1.7%、ゴマ1.4%が配合されている。耐久性に富む携帯食、保存食、非常食である。
もともと乾パンは軍隊の携帯口糧であり、海軍は1872年(明治5)に「麺糧(めんりょう)」として採用、陸軍は98年に福岡技師をヨーロッパに派遣して軍用パンを調査させ、軍制の優れていた当時のオーストリアの乾パンをモデルとして「重焼麺麭(じゅうしょうめんぽう)」をつくった。日露戦争には、ビール酵母発酵の甲号と、重曹ふくらし粉の乙号をつくったが、いずれにも米粉を加えたのは日本食に近づけるためであった。昭和の初め、国際連盟の報告による各国の軍用パンを比較した陸軍糧秣本廠(りょうまつほんしょう)は、このパンの形状と戦力の強弱を関連づけ、弱い軍隊のイタリアのパンは大形、強い軍隊のドイツのは最小形という結論を出した。それでこの小形を採用して、縦33ミリメートル、横18ミリメートル、1個の重さ3グラムを標準とし、「重焼麺麭」は「重症」に通ずるとし「乾パン」に改めた。
[阿久津正蔵]