作物栽培に必要な期間以外は落水し,乾かすことのできる水田をいう。湿田との対比で使われる用語である。水田は本来,水をたたえる方向で造成されてきたため,排水の悪いのが一般である。しかし,このように常時湛水(たんすい)状態にある湿田は,水稲をはじめとして水田作物の栽培にとって,必ずしも好適であるとは限らない。湛水下の還元的な土壌中で発生する硫化水素などの有害物質は,しばしば根腐れを誘発して作物の生育に悪影響を及ぼすし,また湿田に固有の軟弱な基盤は,機械力の導入に大きな支障となる。日本では明治以降,国家的事業として湿田の乾田化が行われ,全国の水田の2/3以上は乾田となったといわれる。その工事の内容は,水田の各所に暗渠(あんきよ)を埋設し,降下浸透水を集水し排水するというもので,暗渠が有効に機能するための用水路と排水路の敷設が必要とされる。
乾田の利点として以下の点があげられる。まず土壌が締まり強固となるため,区画整理とあいまって,機械力の導入を可能にすることである。明治時代に北九州に始まった乾田馬耕は,日本の稲作技術の発展に一転機を画したものとされている。また乾田においては,水管理技術によって,還元土壌中で形成される有害物質を除去することができるし,寒地においては地温を上昇させることも可能となる。いずれも根の健全化を通じて,収量の向上に大きな役割を果たしてきている。さらに乾田は水田作以外の時期には,乾かして畑地として利用することができるため,いわゆる水田二毛作などが可能となり,耕地の高度利用の面からみても,その意義は大きい。しかし湿田と比較して乾田においては,有機物の分解が急速に進み地力の損耗が著しいこと,また養分の溶脱が進んで老朽化が促進されるなどの問題点もあり,その管理に当たっては,客土をするなど適切な処置を講じなければならないことが指摘されている。
→水田
執筆者:山崎 耕宇
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
水田は排水状態(水はけぐあい)の良否によって乾田、半湿田、湿田に分けられるが、乾田とは地下水位が低く排水の良好な水田のことで、融雪あるいは降水直後を除く非灌漑(かんがい)期間に田面がつねに乾燥し、足を踏み入れても絶対に水がにじみ出ることのない水田をいう。水稲の生産力は安定して高く、機械化や麦などの裏作もしやすく、水田の高度利用にも適しているので、湿田、半湿田も乾田化が進んでいる。しかし重量機械の導入により作土下に圧密層が形成され、これによる湿田が増加している。
[小山雄生]
『岡光夫著『日本農業技術史――近世から近代へ』(1988・ミネルヴァ書房)』▽『小室重雄編著『水稲直播の経営的効果と定着条件』(1999・農林統計協会)』▽『吉田英雄著『農業技術と経営の発展』(2002・農林統計協会)』
排水が良好で,用水を止めたときにすぐに田面が乾燥して畑地になりうる水田。または稲の収穫後のよく乾いた田地。通常は湿田との対比で使われる。乾田は土壌中の有害物の除去,地温の上昇,二毛作の拡大,田畑輪換を可能にするなど土地生産性の上昇をもたらす。明治期以降には湿田の乾田化事業が積極的に行われ,なかでも畜力を利用した乾田馬耕が日本の稲作上の画期となった。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…水稲作を農業の根幹とする日本では,耕地の過半は水田によって占められており,その分布は平野部から山間部にまで広がっている。
[湿田,乾田]
水田は,古くは河川流域などに広がる湿地を利用して造成されたものと考えられ,初期の水田は,年間を通じて土壌が湿潤状態にある湿田を主体とするものであった。現在の日本でも,排水施設がととのわなかったり排水の容易でない地域,あるいは灌漑水が得られないため雨水や湧水を貯留しなければならない地域(このような地域の水田は天水田といわれる)には湿田が残っている。…
…谷頭に貯水池を作りうる土木の力は,やがて大前方後円墳に環濠を作らせるようになる。登呂方式の水路灌漑や谷頭の貯水池の水を引く平たん田は,通年湿地状態であった沼地の田とは異なった,収穫後に水を落とすことのできる乾田の第一歩の姿を示す。 田の開発には各時代の農民たちが自分の手で少しずつ行うもののほかに,各時代の貴族,寺社,大小の領主たちの手になるものがある。…
…大正後期からは信濃川における大河津分水のような治水のための分水路設置の動きが出てくる。これは水害による収穫の不安定を除くとともに,乾田化を容易にする。佐賀平野における同じ時期からの灌漑体系の整備も大きな効果をあげている。…
※「乾田」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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