事実審法律審(読み)じじつしんほうりつしん

改訂新版 世界大百科事典 「事実審法律審」の意味・わかりやすい解説

事実審・法律審 (じじつしんほうりつしん)

裁判が当事者の権利義務を決定するという重大な課題を担うことから,訴訟法は,審級の異なる裁判所が3度にわたって審理を重ねる三審制度を設けて判決の適正を期している。各審級間の合理的職務分担を図るため,第一審・控訴審(第二審)を事実と法律の両面から事件を審理する事実審とし,上告審(第三審)を法律面に限って審理を行う法律審としている(控訴審と上告審をあわせて上訴審という)。そこで,事実の認定(事実問題)は控訴審かぎりで決着をつけることとし,上告審は法令違反(法律問題)を中心に審理をすることにすれば,単一または少数の裁判所が法的基準の最終的決定の任務を集中的に引き受けることになって,法令解釈の統一に資する。実際の裁判ではなんらかの形で事実問題を上告審に持ち込んで原判決破棄を求めようとする敗訴当事者が少なくないことから,事実問題と法律問題の区別はしばしば複雑微妙な様相を呈する。また,立法問題としても,上告理由にどの程度の絞りをかけるかが激しい対立をよぶことになる。

訴額90万円以下の事件では簡易裁判所,地方裁判所が事実審で,高等裁判所が法律審であり,90万円を超える事件では地方裁判所,高等裁判所が事実審で,最高裁判所が法律審である。事実審裁判所が適法に確定した事実は,上告裁判所を拘束し(民事訴訟法321条),判決の既判力も事実審の口頭弁論終結時を基準とする(民事執行法35条2項)。上告は,法令違背理由とするときに限って可能である(民事訴訟法312条)。事実認定に経験則違背があれば,法令違背と同視できるので,上告が許される。

第一審は,比較的軽微な刑にあたる事件では簡易裁判所であるが,それ以外の事件では地方裁判所である。控訴審および上告審は,いずれの事件でも,それぞれ高等裁判所,最高裁判所である。第一審と控訴審はともに事実審であるが,民事訴訟とは異なり,控訴審はみずから事実認定を行わず,原判決の時を基準として原審の事実認定の当否を審査するにとどまる。上告理由は憲法違反または憲法解釈誤り,判例違反に限られる(刑事訴訟法405条)が,法令解釈に関する重要事項を含む事件を最高裁判所は裁量で受理することができる(406条)。また,著しく正義に反すると認めるときは,最高裁判所は,重大な事実誤認を理由に原判決を破棄することもできる(411条)。したがって刑事訴訟の上告審は,民事訴訟とは違ってゆるやかな意味での法律審である。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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