経営管理機構は大別して,職能別部門組織と事業部制組織とに分かれる。前者が単一品種ないし少数品種の製造・販売を原則としているのに対し,後者は近代企業の多くが特徴としている多角化(経営多角化)による複数・多品種の製造・販売を前提にしている。多角化が進むと,もはや職能別部門組織では十分な機能が期待できなくなる。というのは,市場の性格がおのおの異なっている製品を一括して製造・販売の各部門で扱うことは事実上困難となるからである。こうして,各製品系列を組織の編成基準とする事業部制組織が形成される。この場合原則として,各製品は各市場で独立して採算のとれるものでなければならない。そのため各事業部は自己の製品に関する購買・製造・販売などの業務上の職能・権限を包括しうることになる。
以下事業部制の特徴を要約すると,まず第1に前述の点から,各事業部は原則としてプロフィット・センター(利益単位)であり,各事業部どうしが独立の企業のごとく活動することになる。第2に各事業部長は当該の製品については大幅な権限をもつが,最高経営層の全般方針によって各部門目標(投資利益率,市場占有率など)が指示され,それによって統制を受ける。第3に全般方針と各事業部との調整を図るための多様なスタッフ(ゼネラル・スタッフ,サービス・スタッフ,事業部スタッフなど)が必要となる。
事業部制組織の典型はいうまでもなく,製品別事業部制組織であるが,このほかに特殊形態として地域別事業部制,職能別事業部制がある。しかしいずれも変則的で実際的でない。
次に事業部制の長所・短所をみてみよう。長所としては,(1)トップが全社的な戦略的意思決定に専念できること,(2)業績評価が各部門ごとの利益で把握でき,客観性が高まったこと,(3)各事業部どうしの競争を促進し,組織の硬直化を防止できること,(4)各事業部長は自立的な意思決定を迫られることになり,それによって将来のトップの後継者育成が可能になったこと,などがあげられる。
一方短所としては,(1)事業部制の長所はどちらかというとトップ階層にあらわれるものであり,各事業部内には依然として職能別部門組織の短所が生じる可能性をはらんでいること,(2)そもそも事業部制は管理コストの増大が必然的であり,この点を相殺して余りあるだけのおのおのの製品に独自の市場が備わっていることが必要であること,などがあげられる。
日本においてはこの事業部制は1950年代の半ばごろから急速に普及しはじめ,大規模企業であるほどその傾向が強い。が,アメリカなどに比べてみると,数のうえではまだ相対的に少ない。
またその採用のスタイルもアメリカと比べると独特である。アメリカの場合も本格的に普及するのは1950年以降であるが,1920年代に採用したデュポン,ゼネラル・モーターズ,スタンダード・オイル,シアーズ・ローバックなどは先駆的企業として,いずれも経営多角化がかなりの程度進行し,それに適する組織機構を試行錯誤しているうちにたどりついた結果として事業部制を採用している。したがってアメリカの事業部制においては,製品系列単位に事業部を編成し,プロフィット・センターとして管理していくという事業部制の原則が強く意識されているのが特徴である。
これに対して日本においては,完全な多角化が進んでいない企業でさえも,事業部制を採用しているところが多い。つまり各製品が独自の市場を対象とした製品系列を形成していないのにもかかわらず,先述の事業部制の長所のみの実現をめざしたものである。しかも日本企業の場合,それはあくまでも工場レベルに限られたもので,そこでの独立採算制を確立したものにとどまっていることが多い。そして日本の事業部制の浸透が独特なものであるだけに,一方ではいくつかの問題が残っており,それが60年代以降のそれの見直しにつながっていることも事実である。
まず,不完全な多角化のもとでの事業部制は各事業部間の相互重複が不可避であり,管理コストの増大,販売チャネル上の混乱などの問題を生じる。またさらに,そのために各事業部はとかく短期的視野に陥りがちであり,ひいてはセクショナリズムへ走る傾向もつよい。とくに,複数事業部にまたがるような先端技術製品の開発には事業部を越えた人事異動が不可欠となるため,セクショナリズムのみられる事業部制ではこの種の製品開発には圧倒的にマイナスである。日本企業に模倣によらぬ独自の技術開発が求められている今日,これは重要な問題といわねばならない。
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企業の組織を製品別、地域別、市場別など包括性のある事業別基準で第一次的に編成し、各部分組織を事業部として大幅な自由裁量を与える分権管理組織のこと。これに対照されるのは、製造、販売、財務、購買などの職能を第一次区分とする職能部門制(職能別部門組織)であるが、この組織では全体的な決定や水平的調整の権限を各部へ委譲できないため、集権管理組織とならざるをえない。大規模企業組織で集権管理方式をとると、意思決定の遅鈍化、意思疎通の悪化、意欲の低下など、官僚制的弊害が生ずる。
また、大規模企業組織では、事業内容を多角化しているのが普通であり、それらを一元的に中枢部で管理することは困難が多く、しかも効果があがらない。これらの事情から、多角化した大規模企業では、事業部制が採用されることが多い。その場合、本社には、事業部間の調整と全社的・長期的な戦略上の決定のみが留保され、各事業部は、本社から与えられた目標(利益目標が典型である)を自己の裁量によって達成するよう努力する。このような目標の自主的達成努力を刺激するとともに、その成果を客観的に測定・評価するため、事業部を独立採算制とするのが一般である。このため、同一企業内の事業部相互間の財・サービスの授受は、売買に準じて処理され、条件が整わなければ「取引」を忌避する権限を各事業部に与える例さえも現れている。
[森本三男]
『今西伸二著『事業部制の解明』(1988・マネジメント社)』▽『今西伸二編著『事業部の実際』(1991・マネジメント社)』
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(高橋宏幸 中央大学教授 / 2007年)
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…またアメリカの巨大企業の多角化戦略の展開を,包括的なデータに基づいて統計的方法を使って実証したのがP.ルメルトである(《戦略,構造,経済的成果》1974)。彼は1949年,59年,69年の各時点でアメリカ最大500社のうち任意に抽出した100社に関し,時系列的な戦略変化を観察し,多角化戦略は1950年代に,とりわけ60年代に進行したのであり,同時に60年代初めまでは,以上のような多角化の進行は事業部制の採用をともなったことを明らかにしている。アメリカの巨大企業は今日では,多角化戦略を平均的な成長戦略とし,その管理機構としては事業部制を一般に導入しているのである。…
…企業の成員間に定常的に成立している相互作用のパターン,もしくは経営資源を特定の目標に関連して結びつける型のことをいう。現在までの経営組織の形態には,おおまかにいうと,(1)職能別組織,(2)事業部制組織,(3)マトリックス組織などがみられる。(1)職能別組織は,組織の諸活動を同質的なプロセスごとに部門化した組織で,通常,製造,販売,研究開発などの機能によって部門を構成する。…
…日本で独立採算制の採用が早かったのは松下電器産業である。1933年に事業部制をとり,独立採算の経営組織とした。35年に株式会社に改組したとき,各事業部を分離独立させ,松下電器産業は統轄会社となった。…
…31年にはラジオ,乾電池の生産にも着手した。33年組織を事業部制とし,事業の専門細分化による独立採算の体制を採用した。以来今日までこの体制は伝統的に受け継がれてきている。…
…1906年の鉄道国有法で三菱所有の私鉄株式が清算されると,中国や朝鮮など海外への利権的な海外投資を強め,久弥の家業として神戸製紙所(後に三菱製紙),明治屋,麒麟麦酒,日本セルロイド,東山農場(朝鮮),弥之助の次男俊弥は旭硝子などを経営した。そして08年に三菱合資会社は鉱業(売炭,売銅などの営業を含む),造船,銀行,庶務の4部制にかえ,独立採算による事業部制をとった。
【三菱財閥の確立】
1914年からの第1次大戦による軍需景気にのり,三菱は飛躍的に発展した。…
※「事業部制」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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