豊臣政権の職制。1598年(慶長3)7月ごろ豊臣秀吉の死を前にして設置された。前田玄以,浅野長政,増田(ました)長盛,石田三成,長束(なづか)正家の五名で構成される。豊臣氏の奉行は政権の樹立以来存在し,初期の奉行には桑原貞也,杉原家次,細井方成,石田三也(成),増田長盛,大谷吉継,伊藤秀盛など多くの人名を挙げることができる。そしてその職制は1585年(天正13)秀吉の関白就任を機として,整備されたと考えられるが,このとき五奉行が設置されたとする《太閤記》の記事は事実ではない。その後も奉行の人員やその組合せは多様であり,五奉行設置の記事が確実な史料に見えるのは98年8月である。五奉行のうち浅野長政は秀吉の室杉原氏(高台院)の親族,石田三成,増田長盛は近江出身の子飼いの吏僚,長束正家は丹羽長秀の遺臣から抜擢(ばつてき)された能吏,前田玄以は織田信長の遺臣で故実にも明るい良吏であった。したがって五奉行は豊臣氏諸奉行の代表として秀吉没後の政務を担当したわけであり,長束は主として財務を,前田は所司代として洛中洛外ならびに社寺に対する諸政を担当し,他の3奉行は諸大名との交渉や人質問題,一般庶政・司法を担当したといわれる。そして日常の政務については1人ないし2人,大事の政務については5人協力のもとにこれを処置し,とくに豊臣氏蔵入地(太閤蔵入地)の算用については責任を有し,豊臣秀頼が成人したときにこれを報告する責任を負うものとされ,全般について五大老の上首である徳川家康と前田利家の指揮・監督を受けるように遺命されていた。したがって五奉行は秀頼擁立体制の実務面における中枢であったといえよう。しかし秀吉の死後は浅野長政と4奉行の間が分裂し,ついで豊臣氏の制法に違背した徳川氏を処罰することができず,かえって家康の実力に屈し,最も強硬な石田三成も武断派諸将の圧迫によって失脚,長政も家康によって閉居させられたため五奉行制は解体し,残る3奉行も関ヶ原の戦によって解体せしめられた。
執筆者:岩沢 愿彦
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豊臣(とよとみ)政権の職名。浅野長政(ながまさ)、前田玄以(げんい)、石田三成(みつなり)、増田長盛(ましたながもり)、長束正家(なつかまさいえ)をいう。豊臣氏は奉行制により政務を処理していたが、そのうちとくに中心となったのはこの5人である。1598年(慶長3)秀吉は、死後の政権安定を図り、五奉行の合議制により行政を処理することとし、分担を定めている。分担は、玄以が所司代(しょしだい)として公家(くげ)・寺社関係と洛中(らくちゅう)洛外のこと、正家が知行方(ちぎょうかた)・兵糧方(ひょうろうかた)など財政関係、長政・三成・長盛は一般行政事務となっている。しかし、掟(おきて)などに五奉行全員が連署する形式は1595年(文禄4)ころからみられるので、実質的な成立はこれ以前と考えられる。秀吉の死後、五大老の一人徳川家康に圧せられその権限を失った。
[佐々悦久]
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豊臣政権末期の職制。前田玄以・浅野長政・増田(ました)長盛・石田三成・長束(なつか)正家の5人をいう。「太閤記」に五奉行とあるが,浅野長政宛の豊臣秀吉の遺言状では年寄とよばれており,豊臣家の老職と考えてよい。彼らは秀吉子飼いの信任厚い家臣として豊臣政権の中枢にあったが,秀吉死後は五大老との合議が義務づけられた。1599年(慶長4)閏3月三成の失脚で徳川家康の指揮下に入り,同年10月の長政の甲斐謹慎により解体した。
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…全国のほとんどの大名がまき込まれたこの合戦に勝ったことで,家康は事実上全国の支配者となり,さらに3年後に征夷大将軍となったので,〈天下分け目の戦〉ともいわれる。
[原因]
1598年8月の豊臣秀吉死後の政権は,家康を筆頭とする五大老と三成を筆頭とする五奉行によって運営されることとなった。秀吉の遺言によれば,家康,前田利家,毛利輝元,上杉景勝,宇喜多秀家の五大老が秀頼を後見し,〈御法度,御置目〉などの天下の政治は長束正家,石田三成,増田長盛,浅野長政,前田玄以の五奉行が合議によって推進し,太閤蔵入地その他の中央政権を支える財政の〈算用〉は,家康,利家の2人が総攬することになっていた。…
※「五奉行」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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