日本大百科全書(ニッポニカ) 「井上友一郎」の意味・わかりやすい解説
井上友一郎
いのうえともいちろう
(1909―1997)
小説家。大阪生まれ。大阪、京都の中学を転々としたのち、早稲田(わせだ)大学専門部法科入学。在学中長田(ながた)秀雄に師事し、劇作家を志したが、田村泰次郎(たいじろう)、坂口安吾(あんご)らとの交友を通して作家になる決意を固めた。早大仏文科卒業後、都(みやこ)新聞社の記者となり、1939年(昭和14)、『マノン・レスコー』の日本版ともいうべきダンサーを描いた風俗小説『残夢』が丹羽(にわ)文雄によって激賞されたのを機会に新聞社を退き、作家生活に入った。戦後、風俗小説の中堅作家として活躍、代表作には『ハイネの月』(1947)、『蝶(ちょう)になるまで』(1947~49)などの作品がある。大阪人の庶民感覚を巧みな語り口でとらえた作品が多い。
[磯貝勝太郎]
『『筑摩現代文学大系61 井上友一郎他集』(1979・筑摩書房)』