日本大百科全書(ニッポニカ) 「交渉単位」の意味・わかりやすい解説
交渉単位
こうしょうたんい
団体交渉により代表される労働者の範囲をいい、適正交渉単位ともいう。労働者の職種、労働条件に関する労働者の利害の共通性、団体交渉の沿革、当事者の意向などを考慮して、たとえば特定の職種、会社、事業場単位などで決定する。交渉単位が決定されると、交渉単位内の全労働者による秘密投票が行われ、過半数を獲得した組合に排他的代表権が認められ、団体交渉権限をもつ。そして団体交渉の結果締結された労働協約は、交渉単位内の全労働者に効力が及ぶ。これがアメリカの団体交渉制度の特色をなす交渉単位制で、1935年のワグナー法により創設された。同法は、労働者の団結権、団体交渉権を保障し、これらの権利を侵害する使用者の行為を不当労働行為として禁止し、交渉単位制度を設け、団体交渉を支えるこれらの制度を管掌する全国労働関係局(NLRB)を設立した。NLRBは産業規模の交渉単位を決定し、横断的賃金決定方式の普及による労働条件の標準化を通じて、使用者が個人労働者と個別交渉すること、あるいは会社支配組合と交渉することを排除し、労働条件の向上、改善を図った。しかし労働組合の交渉力が強大になってくると、産業別統一交渉を制限し、交渉単位を使用者単位に限定するなどの使用者の法改正要求が強まり、タフト‐ハートレー法が制定された(1947)。同法は、職種別単位の産業別単位からの分離、産業別単位自体の細分化などにより交渉単位の縮小を図り、労働組合の交渉力を弱め、使用者の要求を実現した。
日本では公共企業体等労働関係法(1948)が交渉単位制度を設けたが、アメリカとは異なり、交渉単位は、公共企業体とその職員側との協議により決定され、それぞれの交渉委員を選出し、団体交渉を行うことになっていた。しかし、この制度はアメリカからのいわゆる直訳制度の最たるもので、きわめて複雑かつ難解で、日本の実情に適せず、単に有名無実化していたのみならず、かえって当事者間の紛議の原因となったため、1956年(昭和31)の法改正で廃止された。
[寺田 博]