1935年に制定されたアメリカの労働組合保護法。正式名称は全国労働関係法National Labor Relations Actといい、通称は法律の提案者ワグナーRobert Ferdinand Wagner(1877―1953)の名をとっている。この法律は、1929年の大恐慌に始まる不況から脱却するためのニューディール政策の重要な一環として制定された。その前身は、連邦最高裁判所により違憲とされた全国産業復興法(NIRA(ニラ))である。
ワグナー法の立法趣旨は、(1)使用者の団結権否認、団交拒否は労働争議を引き起こし、商業の自由な流通を阻害し、(2)労使の交渉力の不平等は、労働者の賃金と購買力を引き下げ、産業における競争的賃金率と労働条件の安定を阻害することで商業の流通を圧迫し、不況の循環を頻繁にする、という認識に基づき、労働者の団結権・団体交渉権を保護助長することにより労使間の交渉力の平等を回復し、商業の自由な流通を促進しようとするものであった。この目的を達成するために、同法は、労働者の団結権・団体交渉権を侵害する使用者の行為を不当労働行為として禁止し、全国労働関係局(NLRB)を創設して、団体交渉の適正単位、交渉代表の決定のほか不当労働行為の防止と救済の手続を行わせた。ワグナー法の制定により組合運動は飛躍的に発展するが、第二次世界大戦後制定されたタフト‐ハートレー法によりワグナー法は大幅に修正された。日本の労働組合法の内容はこの法律の影響を強く受けている。
[寺田 博]
1935年に成立したアメリカの労働立法。全国産業復興法(NIRA(ニラ))第7条(a)項は労働組合に団結権と団体交渉権を保障したが,経営者がそれに応じなければならないという義務規定をもうけていなかった。NIRAが違憲判決(1935)をうけたのち,それに代わるものとして全国労働関係法National Labor Relations Act,通称ワグナー法(提案者ワグナーRobert F.Wagner(1877-1953)に由来する)が成立した。ワグナー法は組合の交渉力を法的に強化し,労使交渉力の均衡をはかる目的で,経営者側に〈不当労働行為〉の規定をもうけた。不当労働行為には,御用組合の援助,組合員の差別待遇,団体交渉拒否,労働者に保障された権利行使の妨害などが含まれている。ワグナー法を運用する行政機関として,3名の専門委員からなる全国労働関係委員会が設置され,不当労働行為の摘発と交渉単位決定の権限が与えられた。後者の権限は,委員会の監督のもとで行われた投票において多数を得た組合に全従業員を代表する交渉権を法的に与えたものである。ワグナー法は37年合憲の判決をうけたが,それとともに経営者は組合不承認の姿勢を放棄し,組合と団体交渉によって労働協約を結ぶようになった。そのため製鉄,自動車など近代的な大量生産工場の未熟練労働者も新たに組織され,CIO発展の基礎となった。ワグナー法は47年タフト=ハートリー法が成立するまで労働組合に関する基本立法となり,第2次大戦後,日本の労働立法のモデルとなった。
執筆者:榊原 胖夫
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アメリカの労働立法。正式には全国労働関係法(National Labor Relations Act)。1935年ニューディール政策の一環として制定。労働者の団結権・団体交渉権を明確に承認し,CIOなど労働組合の発展を促した。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
…20年代および大不況初期には労働運動は不振で,組合員数も減少した。しかしニューディールの下で進歩的諸立法が制定され,とりわけワグナー法(全国労働関係法)により団結権,団体交渉権が保障され,雇主の不当労働行為が厳しく抑止されたことなどにより,労働運動の爆発的高揚期が訪れた。それまで未組織だった大量生産諸産業の労働者を組織しようとする産業別組合運動が高まり,38年にはCIO(産業別組織会議)がAFLから分離して成立した。…
…ドイツやイタリアではファシズムが権力を掌握し,労働運動を抑圧・破砕した。これと対照的にアメリカではニューディール政策がとられ,ワグナー法の制定(1935)にみられるように国家が労働組合の組織化を促進し,購買力の増大を図る一方,財政・金融政策を通じて不況から脱出することが試みられた。こうしてアメリカでは組織化が飛躍的に進展するとともに,職業別組合の強いAFL(アメリカ労働総同盟)からCIO(産業別組合会議)が分裂し,AFLと並ぶ勢力となった。…
※「ワグナー法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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