地球上で進化した自然の生命系だけを考えるのではなく、それ以外の想定可能なさまざまな生命の形態を考案することを目的として、コンピュータのプログラムを通して創造した生命系を人工生命という。略してALまたはALIFE(エーライフ)という。人工生命も自然界の生命体と同様に、生誕、増殖、死滅という生命活動のサイクルにしたがって変化していく。それはコンピュータの中で活動する人工的な生命形態ではあるが、自然の生命系に類似した自律的な生命活動を表現したものになっている。
人工生命の研究は1980年代にラングトンChristopher G. Langtonらが中心となり行われた。人工生命では生物の個体に相当するものをエージェントとよんでいるが、そのエージェントの生き死にをゲーム化しコンピュータで解析する「生命ゲーム」の研究を起点としてスタートした。生命体のもっとも基本的な形態として考えられたのは、碁盤の目のようにくぎられた人工的なセル(細胞)が自律的に増殖するセルのオートマトン(自動機械)である。ラングトンはセル・オートマトンを基盤にして、菌類の増殖形態に類似したループ状に広がっていくセルのネットワークをコンピュータで表現し、これを人工生命とよんだ(1984)。自己増殖するコンピュータ・プログラムの例としてレイThomas S. Rayが考案したメモリー(記憶装置)の複製プログラム「ティエラ」も人工生命の一種である。このプログラムは遺伝子の塩基配列に似た構造で設定され、突然変異のようなエラーも発生するように仕組まれている。
現在の人工生命の研究は、遺伝的な学習機能を備えた計算原理の開発と、人工生命体の器官形成に関する可能性の探究に向けられている。研究者はコンピュータを有力な手段にして、さまざまな環境を人工的に設定することにより、生物進化の可能性を広く探究しようとしている。日本では、人体に制限されない人工脳の研究もあり、人工生命の研究は生物学や医学による生体研究の制限を超えて有効性を発揮する可能性を秘めている。
[中村量空]
『スティーブン・レビー著、服部桂訳『人工生命――デジタル生物の創造者たち』(1996・朝日新聞社)』
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