仏教系大学(読み)ぶっきょうけいだいがく

大学事典 「仏教系大学」の解説

仏教系大学
ぶっきょうけいだいがく

仏教大学とは,設立や教育理念に仏教精神を掲げたり,仏教教団が創設に関わっている大学を指す。その中でも,伝統仏教教団(宗門)が設立・経営に関わっている場合には宗門系大学と称することもある。仏教系大学の中には現在もなお僧侶養成を担っている大学もあるが,それは全体として少数であり,実際には一般学生の在学が多数を占める。近年では,福祉や教育といった人文系学部のみならず,医や理工,情報など仏教とは直接関わりのない学部・学科を有する大学が増えている。なお,アジア以外にも欧米オーストラリアなどにも仏教系大学が設置されている。

[日本の仏教系大学]

日本の仏教系大学の源流としては,平安初期,一般大衆を対象とし空海が開設した綜藝種智院が挙げられる。ほぼ同時期,高野山比叡山には僧侶養成に特化した教育機関が設置される。中世になると宗門ごとに檀林学寮といった僧侶のための教育機関が整備され始める。それらは近世期に確固とした組織体系を有するようになり,各宗門にとっての重要な教育機関として位置づけられていった。

 明治に入るとそれらは国家の教育制度に準じるかたちで展開していく。後に仏教系大学へと展開していく僧侶養成機関は各種学校,私立学校を経て専門学校というように段階的に高等教育機関化していった。その過程において宗乗・余乗(僧侶養成のための伝統的な学問)が減少し,欧米から輸入された近代的な学問が僧侶養成カリキュラムに採用されていった。大学令(大正7年公布)に拠って正式に認可された仏教系大学は,龍谷大学・大谷大学(大正11年),立正大学(同13年)駒澤大学(同14年)高野山大学・大正大学(同15年),東洋大学(昭和3年)の7大学である。東洋大学のみが仏教者・井上円了を中心として設立された大学であり,ほかの6大学は宗門を設立母体とした大学であったため,この時期は仏教系大学≒宗門系大学といえる状況であった。宗門系大学は近世以来の僧侶養成の伝統を色濃く受け継いでおり,在籍者の多くは卒業後に住職を期待される寺院子弟であった。また旧学制下においては,上記以外に仏教系専門学校が18校(うち7校は女子専門学校)存在しており,先の7大学と同様に,仏教精神を強く前面に打ち出しながら教育・研究活動が行われていた。

 1946年(昭和21)の学制改革以降においては,前述の7大学はそのまま大学として認可され,仏教系専門学校も順次大学へ昇格していく。ほかにも女子大学・女子短期大学の創設,宗門が関与しない仏教系大学の増加,仏教系新宗教による大学設置など,仏教系大学をめぐる状況は大きく変化していった。新学制下における仏教系大学の特徴としては,一般学生の入学に重点を置いた運営を行い,戦後の高等教育需要拡大に伴って多学部化の路線を歩んだことが指摘できる。多学部化によって仏教学部の地位は相対的に低下し,圧倒的多数を占めていた宗門関係者の割合は減少していった。それに伴い,僧侶養成や仏教精神に重点を置いた大学理念を,一般学生を視野に入れた理念へと転換していった。さらに戦後は大学自治の観念が浸透し学校法人としての独立性が高まっていったため,戦前と比べ宗門との関わりは小さくなっていった。なお,1994年(平成6)に仏教系大学会議が設立された。建学の理念を仏教に置く全国の仏教系大学(短期大学を含む)のうち53校が加盟しており(平成25年度),各大学間の連絡組織として機能している。

[諸外国における仏教系大学]

高度な教育・研究内容を備えていたという意味において,世界最古の大学の一つとして名高いナーランダ大学(インド),後期インド仏教の拠点となったヴィクラマシーラ大学(インド)など仏教系大学(実質的には僧院)の歴史は古い。仏教が東漸するに従ってチベット,中国,スリランカ,タイなどに僧侶養成のための教育機関が設置されてきた。しかし,現在設置されている仏教系大学のほぼすべてが欧米の近代教育制度の影響を受けながら20世紀以降に設立されたものである。各国の例を挙げると,インドの新ナーランダ大学,ミャンマーの国際仏教大学,タイのマハーチュラロンコーンラージャヴィドゥャ大学,モンクット仏教大学,韓国の東国大学,金剛大学,台湾の仏光大学,玄奘大学などがある。このほかアメリカ合衆国やオーストラリア,ハンガリーにも仏教系大学が設置されている。ただし,これらの諸大学は実に多様な内実を有しており,大学の理念や組織,教育内容に大きな差異がみられる。

 2007年には国際仏教徒大学協会(International Association of Buddhist Universities)がタイのバンコクで発足し,仏教系高等教育機関を会員とした世界初の国際組織が結成された。2013年段階では17ヵ国60大学の加盟があり,各大学間における教育・研究の交流を推進すべく活動している。
著者: 江島尚俊

参考文献: 江島尚俊・三浦周・松野智章編『近代日本の大学と宗教』法藏館,2014.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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