仏身論(読み)ぶっしんろん

改訂新版 世界大百科事典 「仏身論」の意味・わかりやすい解説

仏身論 (ぶっしんろん)

仏陀という存在の本質は何か,それはまた現象としてどのように展開してくるかを論ずる,仏陀に関する存在論。仏教の開祖釈迦死後,歴史的人物としての釈迦=仏陀は決して無に帰したのではなく,宇宙の真理,あるいは精神の原理としての法(ダルマdharma)に帰入したのだという信仰から,仏陀の本質は〈法身〉であるという考えが,すでに部派仏教の時期にいくつかの部派の中でおこった。大乗仏教になって仏身に関する思索が深まり,中観派の竜樹,さらには瑜伽行派弥勒マイトレーヤ),無著世親らの論師たちによって最終的に3種の仏身をたてる〈三身説〉が成立した。三身とは(1)法身(ダルマ・カーヤdharma-kāya),(2)報身(サンボーガ・カーヤsambhoga-kāya),(3)応身(化身,ニルマーナ・カーヤnirmāṇa-kaya)の3種,あるいは(1)自性身(スババーバ・カーヤsvabhāva-kāya),(2)受用身(サンボーガ・カーヤsambhoga-kāya),(3)変化身(ニルマーナ・カーヤnirmāṇa-kāya)の3種をいう。これら三つは論師あるいは宗派によって微妙に解釈を異にするが,前者の三身を略説すると次のごとくである。法身とは宇宙の真理としての仏陀である(たとえば毘盧遮那(びるしやな)仏)。報身とは仏陀になるまでの修行によって得られた功徳に荘厳された仏陀であり,たとえば盧遮那(るしやな)仏や阿弥陀仏などとして具象化された仏陀がこれに相当する。応身とは衆生済度のために種々に身を変化して姿を現した仏陀であり,歴史的人物としての仏陀(釈迦)はこの応身に含まれる。後者の自性身,受用身,変化身の三身は法相宗が所依の論とする《成唯識論》にみられる表現であり,法・報・応の三身説をふまえたうえで,より綿密に組織された仏身論である。自性身は法身に,受用身は報身に,変化身は応身に相当する。このうち自性身とは法身と同じく,宇宙の真理としての仏陀である。受用身はさらに自受用身と他受用身とに分かれるが,このうち自受用身とは,その身体が宇宙全体に遍在する仏陀であり,仏陀自らのみがその境界を受用する,すなわち味わい享受することができる仏身である。これに対し,他受用身とは,初地から十地までの菩薩のために教えを説く仏陀である。最後の変化身は,初地以前の菩薩,声聞・独覚の二乗,さらには凡夫などのために具体的に姿を現して人びとを救済する仏陀である。
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