150-250年ころのインド大乗仏教の哲学者。生没年不詳。サンスクリット名をナーガールジュナNāgārjunaという。南インドのバラモン出身で,若くしていっさいの学問に通じ,隠身の術により後宮に入って快楽を尽くしたが,欲望は苦の原因であると悟って出家したと《竜樹菩薩伝》に伝えられている。彼は,大乗仏教の基盤であり,〈般若経〉で強調された,〈空〉の思想を哲学的に基礎づけ,後世の仏教思想全般に決定的影響を与えた。これを評価して,中国や日本では〈八宗の祖師〉と仰がれている。彼は,その主著《中論》(正確には《中頌》)において説一切有部(せついつさいうぶ)を代表とするいっさいの実在論を否定し,すべてのものは真実には存在せず,単に言葉によって設定されたのみのものであると説いている。この主張を受け継いで成立したのが中観派である。竜樹の真作とされるものには,そのほかに《廻諍論(えじようろん)》《空七十論》《広破論》などがある。漢訳にのみ存し真作が疑われるが,中国,日本に重要な影響を与えたものに,《十二門論》《大智度論(だいちどろん)》《十住毘婆沙論(じゆうじゆうびばしやろん)》がある。竜樹の思想は,クマーラジーバ(鳩摩羅什)によって中国に伝えられ,その系統から〈三論宗〉が成立した。また一方,シャーンタラクシタによってチベットに導入され,ツォンカパを頂点とする全チベット仏教(ラマ教)教学の中核をなしている。なお8世紀以降のインド密教においても,竜樹を著者と仮託する,《五次第》などの多数の文献が著された。
執筆者:松本 史朗
竜樹菩薩は樹下で生まれ,竜宮で成道したので竜樹と称したと伝えられるが,《今昔物語集》巻四-24の〈竜樹,俗ノ時,隠形(おんぎよう)ノ薬ヲ作リタルコト〉と題する説話がある。説話では,竜樹が使った隠形の薬は異教の経典にあった術で,寄生木(やどりぎ)を5寸くらいに切り,100日間,陰干しにしたもの。髪に挿していると隠蓑(かくれみの)と同じように姿を隠すことができると信じられていたらしい。古代に日本で神事に列席する貴人らが冠の笄(こうがい)にヒカゲノカズラをかけて清浄を表したのに似ている。なお《医心方》には,唐代に著された《竜樹菩薩方》(《竜樹方》)からの抄録がある。また,養生書には《竜樹菩薩養性方》,香方粉沢の書としては《竜樹菩薩和香方》,祝由術の書には《竜樹菩薩印法》《竜樹呪法》などがあったほか,沙門,菩提による《竜樹菩薩馬鳴菩薩秘法》という文献があった。
執筆者:槇 佐知子
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…仏教においては,諸部派の中説一切有部が有力で,法実有論を唱え,原子論を主張し,2世紀以降北インド一帯に広まった。大乗仏教では竜樹(ナーガールジュナ,150‐250ころ)が空性説を唱えて,法実有論を徹底的に攻撃した。彼の学系は中観派といわれる。…
…インド大乗仏教の論書。竜樹(ナーガールジュナ。150ころ‐250ころ)の著とされるが,疑問も呈されている。…
…サンスクリット原典はなく,クマーラジーバ(鳩摩羅什)訳の漢訳のみが現存する。著者は竜樹とされるが,疑問も出されている。《大品(だいぼん)般若経》の注釈で,全100巻の膨大なものであるが,原書はその10倍もあり,クマーラジーバは最初の34品(《大品般若経》の序品に相当)のみ全訳し,以下は抄訳したという。…
…サンスクリット名をアーリヤデーバĀryadevaという。南インドまたはスリランカの出身で,中観派の祖竜樹の弟子となり,空観の思想を宣揚した。その思想的特徴は,破邪の強調にあるとされ,激しく小乗や外道(仏教以外の宗教,哲学)を批判したため,ついには外道によって斬殺されたという。…
…インド大乗仏教の論書。竜樹(ナーガールジュナ)著。サンスクリット原典,チベット語訳,漢訳(クマーラジーバ訳)が現存。…
…したがって,インドの神秘主義者のほとんどは同時に不可知論者でもあった。例えばウパニシャッドの哲人ヤージュニャバルキヤは,アートマンは〈そうでない,そうでない〉としかいいようのないものであるとし,大乗仏教の中観派の論者ナーガールジュナ(竜樹)は,世界は不生不滅,不一不異,つまり空であり固定的言語表現による真如の把握は不可能とした。また,宗教実践上の観点から,さまざまな世界のものごとについての判断は無用である,ないしそのような判断を停止したほうが心の平安が得られるとする考えも有力であった。…
…150‐250年ころの人。サンスクリット名ナーガールジュナNāgārjuna,竜樹とも訳される。大乗仏教の基礎を築き,中国,日本における八宗派の祖ともいうべき竜樹と同一人物とされ,とくに密教の方面で竜猛と呼ばれ,密教を初めて世に流布させた人として尊重される。…
※「竜樹」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
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