内科学 第10版 の解説
代謝・栄養異常患者のみかた(診断と一般検査)(総論(代謝・栄養の異常))
栄養不良は栄養素の必要量と摂取量の不均衡から生じるもので,栄養不足と栄養過多がある.栄養素はエネルギーとなる糖質,脂質,蛋白質の3大栄養素とビタミンおよび無機質などに分類される.これらの栄養素間のアンバランスも問題で,ある栄養素は過多であるが,別の栄養素は不足している状態も起こり得る.エネルギー摂取過多に伴い,肥満,2型糖尿病・耐糖能障害,脂質代謝異常,高尿酸血症・痛風などの代謝異常が引き起こされる.また,各種栄養素の不足により,種々の異常が引き起こされる.
(2)病歴・臨床症状
栄養状態の把握には栄養アセスメントとして過去3カ月間の体重変化,食事摂取状況,食欲,消化器症状,日常生活状況などを評価する.栄養障害の最初のスクリーニングとしては問診,病歴や身体所見による主観的包括的評価(subjective global assessment:SGA)が重要である.SGAに対し,身体計測値や臨床検査値に基づく栄養評価を客観的栄養評価(objective data assessment:ODA)という(表13-1-1).また,代謝疾患では家系内発症が多く,家族歴の聴取も重要である.それ以外にも,各疾患に特異的な病歴聴取,臨床症状の評価も必要となる.たとえば,糖尿病では高血糖による症状(口渇,多飲,多尿,体重減少,易疲労感),糖尿病合併症が疑われる症状(視力低下,足のしびれ感,歩行時下肢痛,勃起障害,無月経,発汗異常,便秘,下痢,足潰瘍・壊疽),既往歴で膵疾患など糖代謝異常を引き起こす可能性のある疾患の有無,肥満,高血圧,脂質異常,動脈硬化性疾患の有無,体重歴,妊娠出産歴,家族歴,糖尿病治療歴などを確認する必要がある.脂質異常症ではアキレス腱肥厚などによる靴ずれ,踵部の自発痛,腹痛の有無(著明な高トリグリセリド血症では急性膵炎を発症するため),間欠性跛行など動脈硬化性疾患によると考えられる症状,食習慣,生活習慣,体重歴,家族歴などが必要である.
(3)身体所見・身体計測
栄養状態の評価には身体所見としては皮下脂肪,筋肉の損失状態,浮腫,腹水の有無などを確認する必要がある.また,身体計測として,身長,体重,BMI(体重(kg)÷身長(m)2),腹囲,皮下脂肪(上腕三頭筋皮下脂肪厚(triceps skinfold thickness:TSF),肩甲骨下部皮下脂肪厚(subscuplar skinfold thickness:SSF))(図13-1-1),筋肉量を測定する.筋肉量は上腕囲(arm circumference:AC,上腕三頭筋中点を通る腕の周囲の長さ)を測定し,以下の数式により,上腕三頭筋囲(midupper arm muscle circumference:AMC)および上腕筋面積(midupper arm muscle area:AMA)を算出する(π:円周率). 糖尿病では皮膚の変化,視力,眼底変化,歯周病,足病変,感覚障害,腱反射低下,振動覚低下,自律神経障害(起立性低血圧,発汗異常,排尿障害,勃起障害)などを評価する.脂質異常症ではアキレス腱肥厚,黄色腫,角膜輪などの有無を確認する.
(4)一般検査
栄養状態の評価や糖代謝,脂質代謝に必要な検査項目を表13-1-2に示す.栄養状態の評価には血中の蛋白質濃度が重要で,アルブミンは半減期が21日と長いため中長期の栄養状態の指標となる.一方RTP(rapid turnover protein)とよばれる半減期の短い蛋白質(プレアルブミン,レチノール結合蛋白,トランスフェリン)などは短期の栄養状態の指標となる(表13-1-3).低栄養時には血漿アミノ酸濃度が低下し,特に分岐鎖アミノ酸(branched chain amino acid:BCAA)が低下する.肝障害ではBCAAが低下し,芳香族アミノ酸(aromatic amino acid:AAA)が上昇し,Fisher比(BCAA/AAA)が低下する.コリンエステラーゼは低栄養で低下,過栄養で上昇する.トランスアミナーゼは直接的な栄養状態の指標ではないが,栄養療法開始時などに肝臓に負担がかかり上昇することがある.貧血の有無,肝,腎機能,免疫能なども必要である.
糖代謝の評価には血糖値,尿糖や平均血糖値を反映する指標(グリコヘモグロビン,グリコアルブミン,1,5-AG(anhydroglucitol)),血中および尿中ケトン体,インスリン分泌能(血中インスリン,C-ペプチド,尿中C-ペプチド),インスリン抵抗性の指標(HOMA-R=空腹時インスリン(μU/mL)×空腹時血糖(mg/dL)÷405など)などが重要である.グリコヘモグロビンはヘモグロビンの糖化産物であり,過去1~2カ月の平均血糖値を表すが,赤血球寿命に影響される.また,異常ヘモグロビン症では評価困難である.グリコアルブミンは血清アルブミンの糖化産物であり,過去約2週間の平均血糖値を反映する.また,負荷試験(75 g経口糖負荷試験,グルカゴン負荷試験)も糖尿病診断,インスリン分泌能評価などに必要である.糖尿病腎症の指標として尿アルブミン,尿蛋白,血中クレアチン,eGFRなどが必要である.また,自己免疫疾患である1型糖尿病の診断には自己抗体(抗グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)抗体,抗インスリン自己抗体など)が重要である.
脂質代謝の評価には血中総コレステロール(TC),トリグリセリド(TG),高比重リポ蛋白コレステロール(HDL-C),低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)をまず測定し評価する.LDL-Cは直接測定も可能であるが,Friedwaldの式(LDL-C=TC-HDL-C-TG/5)を用いて計算できる(ただしTG<400 mg/dLの場合のみ,この式は適用できる). さらに非エステル化脂肪酸(NEFA),リポ蛋白分画,アポ蛋白(AⅠ,AⅡ,B,CⅡ,CⅢ,E),Lp(a),リポ蛋白リパーゼ,レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ,レムナント様リポ蛋白コレステロールなどの測定も有用である.[西 理宏・南條輝志男]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報