精選版 日本国語大辞典 「企業者」の意味・読み・例文・類語
きぎょう‐しゃキゲフ‥【企業者】
- 〘 名詞 〙 =きぎょうか(企業家)
- [初出の実例]「社会問題と云ふ名は〈略〉大工場が起ってから、企業者と労働者との間に生じたものではあるが」(出典:大塩平八郎(1914)〈森鴎外〉附録)
〈企業者〉は本来学術用語であり,日常語の〈企業家〉〈経営者〉〈ビジネスマン〉のいずれとも正確に対応しない。〈企業者〉概念を確立したのはシュンペーターであり,1912年刊行の《経済発展の理論》において,経済の動態的発展は〈企業者〉による〈革新(イノベーション)〉ないし〈新結合neue Kombination〉によって可能になると主張した。静態的循環を繰り返す経済が,新技術の発明や生産要素の新しい結合方法のような〈革新〉により,より高い均衡水準に向かって動態的発展の過程に入ると,その過程に利潤や利子が発生するというのである。それ以後,〈企業者〉は経済発展論の中心概念となり,創造的な〈企業者〉が模倣的な〈経営者〉と対比して論じられる。また企業の所有者がみずから経営の陣頭に立つ資本主義の初期を〈企業者時代〉,多数の株主に代わって専門経営者が企業を支配する高度資本主義期を〈経営者時代〉というように,〈企業者〉概念が経済発展の時代区分に用いられるようにもなった。
しかし,シュンペーターの〈企業者〉概念は直截簡明でありすぎ,具体的経済現象の解明には不都合なことも多く,再検討と修正が加えられてきている。まず企業者の機能である〈革新〉の内容が確定しがたい。ある技術の最初の発明とその企業の最初の本格的な企業化と,いずれが〈革新〉なのか。〈革新〉と〈模倣〉の区別もつけがたく,日本のように〈模倣的革新〉によって急速な経済発展を実現した国もある。そこで〈企業者〉の機能を〈革新〉よりも〈意思決定〉に求める見解も有力であるが,今日の大企業では重要な意思決定ほど,重層的な経営レベルに分散した意思決定の積重ねによって行われることが多く,〈企業者〉の確定は困難である。そのほか,資本,労働力,原材料など諸資源を結合して生産活動を推進する,その〈組織化〉の機能の担い手を〈企業者〉とみなす見解も提出されており,この見解は19世紀初期のフランス経済学におけるentrepreneurの概念に近い。しかし今日では,むしろ〈革新〉〈意思決定〉〈組織化〉のすべてを〈企業者〉の主要機能と考えるのが適当のようである。
執筆者:中川 敬一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…主著の一つである本書はその副題の示すとおり,〈資本主義過程の理論的・歴史的・統計的分析〉であり,彼の社会学的諸研究(《租税国家の危機》(1918),《帝国主義の社会学》(1918‐19),《社会階級論》(1927)など)は,すべてこの主題のため,もっぱら制度に関する分析用具を用意することにあった。彼によれば,〈発展〉は生産要素の新結合=革新(イノベーション)から生じ,革新の担い手として異常な努力に堪えうる少数の人物が〈企業者〉にほかならない。そして革新は旧来の経済軌道を変革破壊し,その攪乱作用が景気循環を生むが,それが再び均衡状態を回復するとき,新しい価値体系と大量の生産物を作り出す。…
…準地代としての超過利潤は個々の生産資源よりむしろこの企業独自の生産組織に帰せられるべきものである。 このようなマーシャルの見解に対してシュンペーターとナイトは,超過利潤の発生を独特な企業者活動に求め,超過利潤は企業者職能に対する報酬であると考えた。シュンペーターのいう企業者とは,日常的な業務に従事する経営者でもなければ,資本の所有者としての資本家でもない。…
※「企業者」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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