伝染性紅斑(読み)デンセンセイコウハン(その他表記)Erythema infectiosum (Fifth disease)

デジタル大辞泉 「伝染性紅斑」の意味・読み・例文・類語

でんせんせい‐こうはん【伝染性紅斑】

ウイルス一種が感染し、特徴的な赤い発疹ほっしんが現れる小児の軽い感染症。両ほおが赤くなり、続いて四肢臀部でんぶに群発するが10日前後で治る。感染症予防法の5類感染症の一。りんご病

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精選版 日本国語大辞典 「伝染性紅斑」の意味・読み・例文・類語

でんせんせい‐こうはん【伝染性紅斑】

  1. 〘 名詞 〙 多く幼少児の顔面や四肢に特徴的に現われる紅斑。ウイルス性と推定されている。発疹はまず顔に現われ両頬が赤くなり、やや後れて前腕、大腿部斑点状のものが多発し、輪郭のはっきりした大小の円形の集まりとなる。かゆみ、ほてりなどがあるが、二週間ほどで消え、予後は良好。りんご病。

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六訂版 家庭医学大全科 「伝染性紅斑」の解説

伝染性紅斑(リンゴ病)
でんせんせいこうはん(リンゴびょう)
Erythema infectiosum (Fifth disease)
(感染症)

どんな感染症か

 伝染性紅斑は頬がリンゴのように赤くなることから、通称「リンゴ病」とも呼ばれています。5~9歳ごろに最も多く発症します。

 原因はパルボウイルス科エリスロウイルス属に属するB19ウイルスの感染です。赤血球の膜表面にあるP抗原を受容体として感染し、主に赤芽球前駆(せきがきゅうぜんく)細胞に感染して増殖します。

症状の現れ方

 10~20日の潜伏期ののち、子どもでは通常、頬がリンゴのように真っ赤になり、その後手足にレース状の発疹が現れます。いったん消えた発疹が再び現れることもあります。成人では頬の紅斑を認めないことが多く、手足の発疹、全身倦怠感(けんたいかん)や関節炎症状だけの場合があり、風疹(ふうしん)と間違われることが多くあります。

 通常数日の経過で自然に治ります。発疹が現れるころにはもう感染力はほとんどなく、発疹出現前1週間くらいの感染力がいちばん高いといわれています。

 妊婦が感染すると胎児に感染し、重度の貧血から胎児死亡、流早産、胎児水腫(すいしゅ)を起こすことがあるため注意が必要です。また、慢性貧血の患者さんがかかると、重い症状を起こすことがあります。

検査と診断

 通常、小児では典型的な臨床症状から診断されることがほとんどですが、成人の場合、ウイルス学的な検査をしないと風疹との区別が困難です。血清中のウイルス遺伝子(DNA)をPCR法で検出したり、急性期と回復期に採血してIgG抗体の陽転あるいは上昇を確認したり、急性期の特異的IgM抗体を検出することで診断します。

治療の方法

 通常は対症療法のみです。症状が現れた時はすでに感染力がほとんどないため、感染予防が困難な病気です。ワクチンもありません。免疫不全の患者さんや慢性貧血のある患者さんでは、発症時にγ(ガンマ)グロブリン製剤が投与されることがあります。妊婦が感染すると、20~30%の割合で胎児に感染するといわれており、胎児の経過観察が必要になります。

病気に気づいたらどうする

 症状が出た時にはほとんど感染力はないので、学校、幼稚園、保育所では登校・登園停止の疾患にはなっていません。ただし、基礎疾患がある人、妊婦などは、かかりつけの小児科、内科、産婦人科を受診し、よく相談する必要があります。

多屋 馨子


伝染性紅斑(リンゴ病)
でんせんせいこうはん(リンゴびょう)
Erythema infectiosum (Fifth disease)
(子どもの病気)

どんな病気か

 両方の頬に紅斑(リンゴのようにみえる)ができることを特徴とする学童期の急性ウイルス性疾患です。

原因は何か

 ヒトパルボウイルスB19という小さなウイルスが原因です。学童期(6~12歳)にかかることが多く、冬から春にかけて、施設、学校で流行性に発生します。経気道感染といわれ、発疹が現れた時には伝染力はないといわれています。

症状の現れ方

 16~17日の潜伏期のあと、頬部に紅い斑状丘疹(はんじょうきゅうしん)が現れます。発疹は融合し、両頬は平手打ち様、リンゴ様のびまん性(広がりのある)紅斑になり、ちょうど蝶が羽を広げたように見えます(図49)。1~2日後から上肢、大腿の順に紅斑が現れ、発疹の中央が退色して大理石紋様、レースのような編み目状あるいは地図状皮疹になります。発疹はかゆみを伴い、日光、温熱により再び現れることがあります。2~3週の経過で治ります。

 慢性溶血性(ようけつせい)貧血の患児では、本症により骨髄無形成発作(こつずいむけいせいほっさ)を起こすことがあります。妊婦がかかった場合では、胎児が感染し、胎児水腫(たいじすいしゅ)を起こして妊娠の継続が困難になることがあります。

検査と診断

 末梢血白血球数が減少傾向になり、網状赤血球も減少し、消失します。診断は通常、流行状況、学童の感染が多いこと、顔面の蝶形紅斑などが認められれば困難ではなく、検査をすることはありません。多形滲出性紅斑(たけいしんしゅつせいこうはん)じんま疹薬疹など、斑状丘疹性疾患との区別を要することがあります。

治療の方法

 この原因ウイルスの特効薬はありません。必要に応じて対症療法を行いますが、予後は良好です。

病気に気づいたらどうする

 発疹が現れた時にはウイルス排出はなく、伝染力はありませんが、発疹が消えてから登校したほうがよいでしょう。予防法はありません。

浅野 喜造


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家庭医学館 「伝染性紅斑」の解説

でんせんせいこうはんりんごびょう【伝染性紅斑(りんご病) Erythema Infectiosum】

[どんな病気か]
 パルボウイルスの感染でおこる病気で、頬(ほお)がリンゴのように赤くなるので、俗にりんご病とも呼ばれます。
 終生免疫(めんえき)ができるので、一度かかれば生涯かかることはありません。
●かかりやすい年齢
 3~12歳の子どもに多い傾向があります。
●流行する季節
 季節性はとくにありません。7~8年周期で流行し、このときには、家族内発生や小学校での小流行がみられます。
[症状]
 7~16日の潜伏期を経て、特有な発疹(ほっしん)が現われます。
 発疹は、顔から始まり、前腕(ぜんわん)、大腿部(だいたいぶ)、臀部(でんぶ)に現われ、胸、腹、背中にはあまり現われません。
 部位により発疹の形状がちがいます。
 顔の発疹は、両頬がリンゴのように一面に赤くなります。前腕や大腿部の発疹は、初めは斑点状(はんてんじょう)ですが、まもなく一円硬貨くらいの大小の円形の集まりとなり、この発疹の周辺部は、堤防状に隆起し、中心部は色が淡く環状にみえ、全体としてはレース編み状にみえます。
 発疹は、現われて3~4日目がもっとも著明で、かゆみ、ほてった感じなどがしますが、暖めたり、日光が当たったり、泣いたりすると、再び明瞭(めいりょう)になります。これが、この病気の発疹の特徴です。
 熱は出ないことが多く、熱が出ても病初の1~2日間、37.5度くらいです。そのほかの症状もないことが多いのですが、ときに、せき、頭痛、のどの痛み、関節痛などが出ることもあります。
[治療]
 発疹のかゆみが強ければかゆみ止めを塗る程度で、特別な治療は必要ありません。
●家庭看護のポイント
 本人は元気なので、病人扱いする必要はありません。しかし、日光に当たったり、摩擦(まさつ)したりすると、消えかかった発疹がぶり返してきますから注意しましょう。
[予防]
 発病してからはうつりません。病人が感染源となるのは発病前の潜伏期間中(症状がまだ現われない時期)ですから入院による感染防止は不可能です。また軽い病気ですからとくに予防対策は行なわれていません。

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改訂新版 世界大百科事典 「伝染性紅斑」の意味・わかりやすい解説

伝染性紅斑 (でんせんせいこうはん)
erythema infectiosum

一般に〈りんご病〉,欧米では〈slapped cheek disease〉といわれる発疹性疾患で,ウイルスの感染によって起こると推測されているが,病因は現在不明である。年長幼児,低学年児童に好発し,乳児や成人には少ない。春秋に多く発生し,保育所などの施設内での小流行がみられる。症状は,1~2週間の潜伏期ののち突然発疹が現れる。ときに微熱が出たりリンパ節が腫張することがある。発疹は,両ほおに対称性に生じ,鮮紅色のやや隆起した浮腫状の紅斑で,チョウのはねの形をなし,熱感がある。やや遅れて四肢にも発疹が現れ,肩や臀部にも広がり,約半数の場合に搔痒(そうよう)感がある。以後発疹はしだいに融合し,中心は退色してレース様,網目様,環状を呈する。発疹は,通常1週間くらいで消失するが,ときに消失,再発をくり返すことがある。重篤な合併症はないが,成人の場合は関節炎を併発することがある。発病の初期には白血球が減少し,リンパ球が増加することがあるが,一定しない。特別の治療法はなく,対症療法を行う。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「伝染性紅斑」の意味・わかりやすい解説

伝染性紅斑
でんせんせいこうはん

全身に特有な発疹(ほっしん)の現れる幼児や学童の伝染病で、まれに乳児や成人にもみられる。原因はパルボウイルスB19(parvovirus B19)。保育所などで小流行がみられ、流行季節はおもに春季、温暖の候で、一度かかれば終生免疫が得られる。潜伏期は1、2週間。前駆症状はほとんどなく、突然発疹が現れる。微熱が出たり、リンパ節が腫脹(しゅちょう)することもある。発疹は顔に初発し、腕や脚部、臀(でん)部によく現れ、胸、腹、背中にはあまりみられない。

 顔の発疹は、両頬(ほお)がリンゴのように一面に赤くなり、リンゴ病と俗称される。欧米ではslapped cheek disease(平手で頬をたたいたように赤くなる病気)とよばれている。四肢や臀部の発疹は、10円銅貨くらいの大小さまざまの赤い円形で、個々の発疹の周辺部はやや隆起して中心部の色が淡く、レース編み状または地図状を呈する。通常1週間前後で消失するが、日光に当たったり摩擦すると、再発を繰り返すことがあるので注意する。

 予後は良好で、特別な治療を要しないが、発熱があれば安静にし、皮膚のかゆみが強ければ抗ヒスタミン剤を用いるなど、対症療法が行われる。

[柳下徳雄]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「伝染性紅斑」の意味・わかりやすい解説

伝染性紅斑
でんせんせいこうはん
erythema infectiosum

りんご病ともいう。顔面にチョウのような形をした紅斑 (こうはん) が現れる病気。主に学童がかかるが,伝染力はさほど強くない。まれに発熱を伴うことがあるが,呼吸器や消化器にまで及ぶことはない。ただ年長児では,全身倦怠や関節痛を訴えることがある。顔面の紅斑は両頬に現れ,多少の隙間はあるものの全体として癒合した形になっており,触わると熱感がある。鼻梁に紅斑が出現すると左右をつなげる形になって,チョウが羽を広げた形に見える。上腕,大腿などに,不整形の赤い発疹 (はっしん) が見られる。いびつな輪ゴムがつながったように見えるもの,格子柄に見えるもの,網目状・レース状のもの等,その他の発疹性疾患ではまず見られない形の発疹である。体幹には少ないが,2,3日すると胴体,とりわけ上胸部などにも出現することがある。その代わり頬の紅斑は日とともに薄らいでいく。通常 10日ほどで治る。

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