家庭医学館 の解説
でんせんびょうよぼうほうからかんせんしょうのよぼうおよびかんせんしょうのかんじゃにたいするいりょうにかんするほうりつへ【「伝染病予防法」から「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」へ】
かつて、日本の感染症対策は「伝染病予防法」に基づいて行なわれていました。しかし、エボラ出血熱(しゅっけつねつ)やエイズ、病原大腸菌(びょうげんだいちょうきん)O-157などの従来、知られていなかった新しい感染症(新興(しんこう)感染症)が出現したり、医学や医療の進歩、衛生水準の向上など、感染症を巡る状況が著しく変化し、それに対応する新たな法律が必要となりました。
新しい法律「感染症予防法」は、平成10年10月2日に公布、平成11年4月に施行されました。同時に「伝染病予防法」「性病予防法」「後天性免疫不全症候群の予防に関する法律」(いわゆるエイズ予防法)は廃止されました。
その後、感染症予防法は感染症の流行状況などを反映し、平成15年、平成18年に改正されています。
●「感染症予防法」の内容
①「伝染病予防法」は患者さんを隔離して病気の広がりを防ぐ、社会防衛が中心でした。しかし、「感染症予防法」では、国や自治体の責任で患者さんに適切な医療を提供することがうたわれるなど、患者さんの人権保護が重視されています。
また、「伝染病」という用語は使わずに、「感染症」という呼び方になります。
②感染症を、感染力や症状の重さによって1~5類までに分類し、それぞれの対応を定めています。また、将来、重篤(じゅうとく)で感染力の強い未知の疾患が出現した場合には「新感染症」に指定して対応します。
感染症の分類内容は以下のとおりです。
1類感染症 エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘瘡(とうそう)、南米出血熱(なんべいしゅっけつねつ)、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱
2類感染症 急性灰白髄炎(きゅうせいかいはくずいえん)、結核、ジフテリア、重症急性呼吸器症候群(じゅうしょうきゅうせいこきゅうきしょうこうぐん)(病原体がSARS(サーズ)コロナウイルスであるものに限る)
3類感染症 コレラ、細菌性赤痢(さいきんせいせきり)、腸管出血性大腸菌感染症(ちょうかんしゅっけつせいだいちょうきんかんせんしょう)、腸チフス、パラチフス
4類感染症 E型肝炎(かんえん)、A型肝炎、黄熱(おうねつ)、Q熱、狂犬病(きょうけんびょう)、炭疽(たんそ)、鳥インフルエンザ、ボツリヌス症、マラリア、野兎病(やとびょう)など41疾患
5類感染症 インフルエンザ(鳥インフルエンザを除く)、ウイルス性肝炎(E型肝炎およびA型肝炎を除く)、クリプトスポリジウム症、後天性免疫不全症候群、性器クラミジア感染症、梅毒(ばいどく)、麻しん、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症など44疾患
③感染症の分類に応じた対応と、指定医療機関での治療が行なわれます。
新感染症と1類感染症は、原則として入院します。2類感染症では、症状が激しく感染力が高いときなど、状況に応じて入院します。3類感染症は、食品取扱など特定業務に就業することが禁止されます。4類感染症は、個人情報を除いた発生状況が調査され、情報は医療機関などに提供されます。入院が必要な場合は、診断した医師の届け出に基づいて、保健所長が72時間の入院勧告を行ないます。入院期間の延長が必要な場合は、感染症診査協議会の意見を聞いた上で決定されます。
④医療費は医療保険を優先的に適用します。
従来、隔離(かくり)された患者さんの医療費は全額公費負担でしたが、新しい法律では、新感染症のみが全額公費でまかなわれます。1類と2類では入院費は医療保険の適用対象となり、その他の自己負担分を公費でまかないます。入院を除く2類、3類と4類は一般の医療費と同様に自己負担があります。
感染症に対する正しい知識をもち、感染症の予防に努めるのは国民の責務といえるでしょう。患者さんや保菌者のプライバシーを守り、偏見や差別のない社会をつくることが強く求められているのです。