伝道の書(読み)でんどうのしょ(英語表記)Eccleciastes

精選版 日本国語大辞典 「伝道の書」の意味・読み・例文・類語

でんどうのしょ デンダウ‥【伝道の書】

(原題Ecclesiastes) 旧約聖書第二一書。諸書一つ。紀元前三世紀頃成立。ソロモンの名をかりて、人生の空しさ、神を信じることの意義、死への備えについて説く。知恵文学の一つ。

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改訂新版 世界大百科事典 「伝道の書」の意味・わかりやすい解説

伝道の書 (でんどうのしょ)
Eccleciastes

旧約聖書の知恵文学に属する書物コーヘレト(〈会衆に語る者〉の意)により,前3世紀前半に成立。人間社会の不条理と矛盾,労働の空しいこと,避けられない運命と死についての洞察にみちた観察と見解箴言(しんげん)の形で表したものを集め,整理したもの。プロローグ(1:2~11)は自然と人間についての観察と判断で,〈空(くう)の空,空の空,一切は空〉で始まる。1章12節~2章は知恵の探究,事業の空しいことをソロモンに擬して語る。3章以下は時間,不義,労働,祭儀,行政,金銭,倫理,女,権力,運命,成功,老いについて述べる。コーヘレトは,世界には秩序があり,善は報いられ悪は罰せられるという画一的・慣習的な知恵の世界を否定し,自己の観察と経験から,人間の現実の限界と否定面を直視することを教え,擬似宗教的救いの幻想から離れることをすすめている。その思想悲観主義懐疑主義でもなく,刹那主義でもない。自己の存在を限界のあるままで神の賜物として受け取ることを教える。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「伝道の書」の意味・わかりやすい解説

伝道の書
でんどうのしょ
qõhelet ヘブライ語
ekklēsiastēs ギリシア語
The Book of Ecclesiastes

『旧約聖書』中の一書。「伝道者の書」ともいう。全12章。表題(1章1節)には「エルサレムの王伝道者(コーヘレト)のことば」とあり、著者がソロモン王であることを暗示するが、実際には、用語や思想内容から、紀元前3世紀ごろの作とみられる。本書は「空(くう)の空、空の空、いっさいは空」に始まり、あらゆる人間の努力の無益さと人生の無意味さ、さらに現実世界の不条理なることを語る。ここに、伝統的な応報的人生観に対する強烈な批判がみられる。と同時に本書は、「永遠への想(おも)い」を与えられている人間が、このような現実に執着せず、しかしまたそこから逃避するのでもなく、「隠れた神」を畏(おそ)れつつ、おのおのの分に応じてつつましく生を享受すべきことを説く。したがって、本書の思想を懐疑主義とか悲観主義、あるいは逆に快楽主義と、一義的に要約するのは正しくない。

 研究者によって、ギリシア、エジプト、バビロニアなどからの本書への文学的、思想的影響が種々に指摘されてきているが、本書の形式的、内容的統一性の問題は、なお議論の余地を残している。

[月本昭男]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「伝道の書」の意味・わかりやすい解説

伝道の書
でんどうのしょ
Qoheleth; Ecclesiastes

旧約聖書諸書の一書。ダビデの子,エルサレムの王である伝道者の言葉とされているが,ソロモンの著作とは認めがたく,ギリシア哲学,特にエピクロス哲学の影響を受けて前 250~150年の間に書かれたと推定される。「日の下で人が行うすべてのわざを見たが,みな空であって風を捕えるようである」 (1・14) との言葉に示されるように,地上的な価値や快楽は究極の安心を与えず,知恵は人間的な諸相のむなしさを教えること,神の思いははかりがたいことを語っている。しかし懐疑と動揺と悲観のうちに永遠を思い神をたたえる信仰がのぞき (3・11) ,義人さえもが義によって滅ぶ人生のむなしさを嘆きつつも,真相を知る知恵が力であり (7・12) ,すべてを知って裁く神の前になしうることは力を尽してなし (9・10) ,神を恐れて本分を守るべきこと (12・13) が逆説的に力強く述べられている。本書は一見他の書にはみられないほど統一性を欠いているため,正典への編入は遅れて2世紀頃であった。

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世界大百科事典(旧版)内の伝道の書の言及

【知恵文学】より

…旧約聖書の《箴言》《ヨブ記》《伝道の書》,外典に属する《ベン・シラの知恵》《ソロモンの知恵》等を,歴史書,預言文学と区別して〈知恵文学〉と総称する。これらの知恵文学には,特にイスラエル的な信仰を特徴づける主題である排他的な唯一神の信仰,歴史の中に神の行為を実現する救済史観,イスラエルの選び,啓示,契約などが見られない。…

※「伝道の書」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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