旧約聖書の知恵文学に属する書物。コーヘレト(〈会衆に語る者〉の意)により,前3世紀前半に成立。人間社会の不条理と矛盾,労働の空しいこと,避けられない運命と死についての洞察にみちた観察と見解を箴言(しんげん)の形で表したものを集め,整理したもの。プロローグ(1:2~11)は自然と人間についての観察と判断で,〈空(くう)の空,空の空,一切は空〉で始まる。1章12節~2章は知恵の探究,事業の空しいことをソロモンに擬して語る。3章以下は時間,不義,労働,祭儀,行政,金銭,倫理,女,権力,運命,成功,老いについて述べる。コーヘレトは,世界には秩序があり,善は報いられ悪は罰せられるという画一的・慣習的な知恵の世界を否定し,自己の観察と経験から,人間の現実の限界と否定面を直視することを教え,擬似宗教的救いの幻想から離れることをすすめている。その思想は悲観主義,懐疑主義でもなく,刹那主義でもない。自己の存在を限界のあるままで神の賜物として受け取ることを教える。
執筆者:西村 俊昭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
『旧約聖書』中の一書。「伝道者の書」ともいう。全12章。表題(1章1節)には「エルサレムの王伝道者(コーヘレト)のことば」とあり、著者がソロモン王であることを暗示するが、実際には、用語や思想内容から、紀元前3世紀ごろの作とみられる。本書は「空(くう)の空、空の空、いっさいは空」に始まり、あらゆる人間の努力の無益さと人生の無意味さ、さらに現実世界の不条理なることを語る。ここに、伝統的な応報的人生観に対する強烈な批判がみられる。と同時に本書は、「永遠への想(おも)い」を与えられている人間が、このような現実に執着せず、しかしまたそこから逃避するのでもなく、「隠れた神」を畏(おそ)れつつ、おのおのの分に応じてつつましく生を享受すべきことを説く。したがって、本書の思想を懐疑主義とか悲観主義、あるいは逆に快楽主義と、一義的に要約するのは正しくない。
研究者によって、ギリシア、エジプト、バビロニアなどからの本書への文学的、思想的影響が種々に指摘されてきているが、本書の形式的、内容的統一性の問題は、なお議論の余地を残している。
[月本昭男]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…旧約聖書の《箴言》《ヨブ記》《伝道の書》,外典に属する《ベン・シラの知恵》《ソロモンの知恵》等を,歴史書,預言文学と区別して〈知恵文学〉と総称する。これらの知恵文学には,特にイスラエル的な信仰を特徴づける主題である排他的な唯一神の信仰,歴史の中に神の行為を実現する救済史観,イスラエルの選び,啓示,契約などが見られない。…
※「伝道の書」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新