快楽主義(読み)カイラクシュギ(その他表記)hedonism

翻訳|hedonism

デジタル大辞泉 「快楽主義」の意味・読み・例文・類語

かいらく‐しゅぎ〔クワイラク‐〕【快楽主義】

自己の快楽追求して苦痛を避けることが善であり、それが人生究極の目的あるいは道徳原理であるとする考え。快楽説ヘドニズム
[類語]享楽的刹那的刹那主義エピキュリアン退廃的デカダンデカダンス虚無的堕落自堕落厭世的厭世観厭世主義

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精選版 日本国語大辞典 「快楽主義」の意味・読み・例文・類語

かいらく‐しゅぎクヮイラク‥【快楽主義】

  1. 〘 名詞 〙 快楽を唯一の善または人生の目的とし、快を求め苦を避けることを行動の原理とする考え方、また、その学説。ヘドニズム。快楽説。
    1. [初出の実例]「那麽(あんな)極端な快楽主義なんか」(出典:青春(1905‐06)〈小栗風葉〉秋)

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改訂新版 世界大百科事典 「快楽主義」の意味・わかりやすい解説

快楽主義 (かいらくしゅぎ)
hedonism

快楽(ギリシア語hēdonē)こそ善の最終的な判断の基準であると考える倫理的立場。一般には肉体的快楽,とくに性的快楽を追求する立場をいうが,哲学史的には,何を快楽とするかは,各体系によって異なる。ソクラテスの弟子アリスティッポスは,人生の目的を快楽の追求とした。ただしこの快楽とは肉体的放縦の所産ではなく,逆に魂による肉体的欲望の統御から生まれると考えた。この態度は次代エピクロス学派に続く。エピクロスとその学派は魂の平静(アタラクシアataraxia)を重んじ,健康で質素な共同生活を通して得られる精神的快楽を重んじた。彼の学園ではつねに快活な笑いとくつろいだ喜びが絶えなかったという。一方インドのチャールバーカ派あるいは順世派では極端な唯物論の立場をとり,感覚的実在以外に何も認めず,輪廻も業も否定した。とすれば人生の目的は感覚的快楽の追求もしくは苦痛の回避しかないと考えた。この立場はもっとも素朴な世俗的人間が無意識にいだいている信念だといえよう。

 近代のその代弁者はフランス唯物論者,とくにエルベシウスである。《精神について》(1758)の中で,彼は人間の本性を次の4項のもとでとらえた。(1)あらゆる人間の能力は結局は感覚に帰する。(2)人間は快楽を愛し苦痛を恐れる利己的存在である。(3)人間はすべて平等の知性をもつが,ものを学ぶ意欲にはばらつきがある。(4)適切な教育を受けた支配者は適当な立法化を行って環境を自分の優位に変更し,それによって自利を増進することができる。ここには浅薄ではあるが,大多数の人間を支配している快楽原則を見抜いた冷徹な世知がある。功利主義提唱ベンサムやJ.S.ミルは〈最大多数の最大幸福the greatest happiness of the greatest number〉を標語として掲げ,幸福とは人間の求める善であり,それは快楽を求め,苦痛を避ける合理的行動によって達成しうると考える。個人の合理的利己的行動こそ政治の干渉さえ受けなければ,かえって社会の自然の調和を生み,最大善・最大幸福に寄与しうるという。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「快楽主義」の意味・わかりやすい解説

快楽主義
かいらくしゅぎ
hedonism

行為標識として快楽 hēdonēをとる理論。幸福主義の一形態。キュレネ学派,なかんずくアリスチッポスは瞬間的快楽のみを善とし,可能なかぎり多くの快楽を集めることに幸福が存するとした。これに反しエピクロスは,そうした感覚的,瞬間的快楽を否定し,至高善たる快は持続的な,したがって精神的なものでなくてはならないとしてアタラクシアを説き,快楽に質的区別を認めた。ほとんど禁欲的な生活をおくったエピクロスへの世人の誤解は,快楽主義への偏見典型である。古代のこの2学派は快楽主義の2つの典型であるが,近代にいたってベンサムはそこに社会的観点を導入した。彼は功利主義に立って,快楽の量的差に基づく快楽計算を提唱,最大多数の最大幸福を主張した。なお,物質的快楽の追求は多くの困難に遭遇することになり,苦痛を増す。それゆえ快楽の放棄こそ快楽への道であるという考えが生れるが,これを快楽主義的逆説と呼ぶ。また美学の領域では,美的快楽を美の本質的要素とする説を美的快楽主義と呼ぶ。 (→エピクロス主義 )

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「快楽主義」の意味・わかりやすい解説

快楽主義
かいらくしゅぎ
hedonism

快楽を最高価値の人生の目的と考え、行動の正しさや義務の基準とみなす倫理学の立場。目的論の一形態で、目的となる相手により、利己主義、利他主義、功利主義のいずれにもなりうる。古代ギリシアのエウドクソスやキレネ学派、エピクロス学派、ホッブズ、イギリスの功利主義者たちに著しい。快楽に質的差を認めず、快楽計算を可能と考えるベンサムの量的快楽主義と、快楽に質的優劣を認めるJ・S・ミルの質的快楽主義が区別される。人間本性は快楽を求めるようにできていると唱える心理的快楽説は、快楽主義を有力に支援し、前述の快楽主義者たちやフロイトなどにもみられる。

 快楽主義の問題点は、(1)目的論一般の制約をもち、(2)心理的快楽主義が決め手を欠く仮説であること、(3)快楽の量的計算には困難があり、(4)善である多くの目的を不当に快楽に還元し、(5)故意に求めぬときにかえって快が得られる「快楽主義の逆説」hedonistic paradoxを伴うことなどにある。

[杖下隆英]

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百科事典マイペディア 「快楽主義」の意味・わかりやすい解説

快楽主義【かいらくしゅぎ】

ギリシア語ヘドネに由来する英語hedonismなどの訳語。快楽を善と考え,快楽の追求を人間の行為および道徳の基礎とする考え方。感覚的快を中心に考えるものと精神的快を真の快楽とするもの,快楽に量的な違いのみを認めるものと質的な差を重視するもの,個人的快を善とするものと公衆の幸福(〈最大多数の最大幸福〉)を善とするものなどがある。古代にあってはエピクロスが,近代ではエルベシウスや,ベンサムとJ.S.ミルの功利主義が代表。

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世界大百科事典(旧版)内の快楽主義の言及

【エピクロス】より

…原子論と快楽主義で有名な古代ギリシアの哲学者。サモス島の生れ。…

【キュレネ学派】より

…北アフリカのギリシア都市キュレネに起こった快楽主義哲学を奉じる学派。ソクラテスの弟子アリスティッポスの創立とされているが,その孫のアリスティッポスが始めたという説が有力。…

※「快楽主義」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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