翻訳|David
イスラエル・ユダ複合王国の王。在位,前997ころ-前966年ころ。ユダのベツレヘムのエッサイの子。羊飼いの少年ダビデは,琴の名手として,悪霊に悩まされていたイスラエル王サウルを慰めるため宮廷に出仕した。別の伝承によると,ペリシテ人の勇士ゴリアテGoliathを倒して認められ,サウルに仕えるようになったという。いずれにしてもサウルの武将として頭角を現し,サウルの息子ヨナタンと深い友情で結ばれ,サウルの娘ミカルMichalを妻に与えられた。しかし,彼の成功をねたんだサウルに命をねらわれるようになり,宮廷から逃亡してユダの荒野に身を潜め,サウルの支配に不満を抱く人々を集めた。しばらくの間,ゲリラ戦によってサウルと対抗したが,身の危険を悟り,あえてイスラエルの宿敵ペリシテ人の都市国家ガテの王アキシAchishのところへ亡命した。アキシはダビデにチクラグ(ネゲブにあったユダの町)を与え,護衛の長にした。サウルがギルボア山でペリシテ人と戦って敗死したことを聞くと,ダビデは南方諸部族の中心都市ヘブロンに行って,ユダ王国を建てた。サウルの軍の長アブネルAbnerは,東ヨルダンに逃げてサウルの子エシバアルEshbaalをイスラエル王として擁立したが,結局,2人とも暗殺されたため,ダビデにイスラエル王位が提供された。
こうして,前997年ころイスラエル・ユダ複合王国の王になったダビデは,エブス人のエルサレムを占領して,ヘブロンから移住した。エルサレムは南北両部族の中間に位置し,それまでイスラエルのどの部族にも属していなかったため,部族間のバランスを保って統一国家を建設したダビデにとって理想的な首都であった。攻めてきたペリシテ人を撃退すると,ダビデは東ヨルダンの諸王国とシリアのアラム人を征服して,南は紅海から北はユーフラテス川に達する大帝国を建設した。この成功を背景に,ダビデは王政前にシロ部族同盟の象徴であった〈神の箱(契約の箱)〉をエルサレムに搬入し,イスラエルの神ヤハウェが,エルサレムとダビデ家を永遠にイスラエルの首都と王家に選ぶ約束をした,と主張した。この神の約束は〈ダビデ契約〉と呼ばれ,のちにダビデの子孫からメシアが現れるというメシア思想の源泉となった。晩年,ダビデの中央集権政策に対する民衆の不満はアブサロムの乱となり,ユダ族偏重策への批判はシバShebaの乱を引き起こしたが,いずれも軍の長ヨアブJoabの働きによって鎮圧することができた。ダビデの治世は,ユダ王時代を含めて約40年間であった。彼はまた詩人としても傑出していたために,後代,多くの詩篇が彼の作とされた。
→イスラエル王国
執筆者:石田 友雄
美術作品において,王としてのダビデは王冠を着け,短いひげをもつ姿,王となる以前は羊飼いや武装した青年の姿で表される。単独像では,《詩篇》本の扉絵に,玉座に座り竪琴を持つ王の姿として描かれるのが代表的である。《ビビアンの聖書》(850ころ)には,楽師らに囲まれて竪琴を手に踊る表現がみられる。旧約聖書による生涯の物語場面の成立は古く,ドゥラ・ユーロポスのシナゴーグの壁画(245ころ)には〈塗油〉の場面がある。またキプロス出土の一連の銀皿(7世紀前半)には,〈塗油〉〈サウルの前のダビデ〉〈ライオンとの格闘〉〈ダビデとゴリアテ〉〈ミカルとの結婚〉など数場面が,各1場面ずつ表されている。中世には,〈モーセ八書〉や《詩篇》などの写本挿絵に,詳しい物語場面が描かれた(《ウィンチェスターの聖書》,12世紀後半)。このほかダビデの姿は〈エッサイの樹〉の中に表されたり,旧約の預言者たちと並んで表されたりすることも多い。ルネサンス期には若い勇士としてのダビデが好まれ,ドナテロのブロンズ彫刻(1434ころ)やミケランジェロの大理石彫刻(1501-04)などの名作がある。
執筆者:浅野 和生
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イスラエル王国第2代目の王(在位前1000ころ~前960ころ)。『旧・新約聖書』の両時代を通じて国民的英雄とみなされ、「王の理想」「主(ヤーウェ)の僕(しもべ)」「祭儀の祖」などともよばれている。「詩編」の作者、竪琴(たてごと)の名手としても知られ、その生涯は『旧約聖書』の「サムエル記上・下」に詳しい。
それによると、ベート・レヘム(ベスレヘム)の無名の羊飼いにすぎなかった少年ダビデは、ペリシテ人の巨人ゴリアテを投石索で倒したことでサウル王に認められ、その寵愛(ちょうあい)を受けた。その後も数々の武勲をたて、王女ミカルMichalと結婚したが、しだいに王のねたみを買うようになったため、争いを避けて国外へ出た。やがてサウルが戦死したため推挙されて王位につき、エブス人からエルサレムを奪って首府とし、ここに団結のしるしである「神の箱」(契約の箱(櫃(ひつ)))を移して、全部族への支配権を打ち立てるとともに信仰の中心を定めた。対外的にはペリシテ人を制圧し、エドム王国を併合し、勢力範囲を中部シリアにまで広げた。内政では礼拝に関する規則を定めて、王の宗教的色彩を強化するとともに、官制、兵制などの整備を行って中央集権を確立し、イスラエル王国の絶頂期を築いた。エルサレムは以後「ダビデの町」とも称される。ヘブライ王国の繁栄については、この時代、北のメソポタミア、南のエジプトがともに沈滞期に入っていたという国際情勢のなかでとらえることも重要である。
[漆原隆一 2018年4月18日]
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…ダビデの三男。ヘブロンでの統治時代に生まれた。…
…ヤハウェのみがイスラエルの支配者であるという神政思想は退けられ,周辺諸民族にならって王政が樹立され,イスラエル王国が建てられた。 初代の王サウルは敗死したが,この間に,南方のユダ族出身のダビデは南ユダ王国を建て,イスラエル王国の王位も兼ねるとフィリスティア人を破り,勢いに乗じて東ヨルダンとシリアを征服して大帝国を築き上げた。前1000年ころのことである。…
…それまでの緩やかな部族連合では,海岸地帯から内陸に向かって勢力を拡大してきたフィリスティア人(ペリシテ人)に対抗できないと悟ったからである。サウルは,治世初期に王国の防衛に成功したが,やがて宗教的指導者サムエルと衝突し,すぐれた武将ダビデを追放してみずからを弱めた。サウルがフィリスティア人と戦って敗死すると,軍の長アブネルAbnerは東ヨルダンに逃れ,サウルの子エシバアルEshbaalをイスラエル王に擁立して対抗した。…
…しかし1967年以降の都市開発によるコンクリート高層住宅群は,現代の城壁,堡塁ともいうべく,この都市固有の地平の美観を破壊しつつある。
[市域の拡大]
エブス人(びと)の砦,ついでダビデの町というエルサレムの起源の段階では,その範囲はのちの神殿区域の南方に局限されていたと考えられている。そこから北方に延び,しだいに市域を拡大して,ローマ支配期にほぼ今日の旧市街の規模のものとなった。…
…上1~7章は,シロの神殿に仕えたサムエルの少年時代,シロを中心とするイスラエル部族連合がペリシテ人に敗北した経緯,士師サムエルの活動などについて,上8~15章は,サウルがイスラエル初代の王に選ばれたいきさつ,サウルとペリシテ人の戦い,サウルとサムエルの仲たがいなどについて語る。上16~下8章には,サウルの宮廷に仕えた牧童ダビデが,多くの苦難を乗り越えてついにイスラエルとユダの王となり,大帝国を建設したことを物語る〈ダビデ台頭史〉,下9~20章には,ダビデの王子たちの争いと反乱などを伝える〈ダビデ王位継承史〉(《列王紀》上1~2章に続く)が認められる。最後に,下21~24章には,ダビデ王に関する種々のエピソードが収められている。…
…前10世紀前半に活動したイスラエルの預言者。ダビデがエルサレムに遷都したのち宮廷に登場。《サムエル記》下7章は,ナタンがダビデに預言して,イスラエルの神ヤハウェがダビデとその子孫を選び,イスラエルにおけるダビデ家の支配の永続を約束したことを告げる。…
…アラビア語ではバイト・ラフムBayt Laḥmとよばれる。ダビデ王の生地。後にメシア信仰の象徴となる。…
…古代イスラエル人の王国。前1000年ころ,イスラエル王国初代の王サウルがフィリステア人(ペリシテ人)と戦って敗死すると,フィリステア人の国に亡命していたダビデは,南方諸部族の中心都市ヘブロンに行き,ユダ王国を建てた。その後,ダビデはイスラエル王国の王位も兼ねたが,ユダ王国はイスラエル王国と別個の政治組織として残された。…
…〈シナイ契約〉を確認するために,モーセを仲保者として与えられた律法は,民族的・宗教的共同体として成立したイスラエルの生き方を決定する基本法となった。 前13世紀末に,イスラエル人はカナンに侵入して〈約束の地〉に定着したが,前1000年ころ,ユダ族出身のダビデが王となり,シリア・パレスティナ全域にまたがる大帝国を建設し,エルサレムを首都に定めた。その子ソロモンが,エルサレムのシオンの丘に主の神殿を建立すると,主はダビデ家をイスラエルの支配者として選び,シオンを主の名を置く唯一の場所に定める約束をした,と理解された(〈ダビデ契約〉)。…
…サウルを助けてペリシテ人と勇敢に戦い,ついに父や兄弟とともにギルボア山で戦死した。他方,サウルに仕えた将軍ダビデと固い友情を結び,嫉妬深い父からダビデをかばってその逃走を助けた。悪霊につかれたサウルとは対照的に,友情に厚い理想的な勇士としてヨナタンを描く《サムエル記》の叙述は,ダビデの王位正当化を意図する歴史的記述に由来する。…
※「ダビデ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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