主として色素胞の活動により動物の体色が変化すること。動物の個体あるいは種族維持にとって重要な意義をもつ現象である。色素胞内の色素顆粒(かりゆう)の凝集・拡散運動によって生じる迅速な生理学的体色変化と,色素の量あるいは色素細胞数の増減による比較的ゆっくりとした経過をたどる形態学的体色変化に区別できる。たとえば,隠蔽色のうち,被食者のいわゆる保護色では,背地の色あるいは紋様に適応する速い生理学的変化の例が多く知られている。標識色の代表例である婚姻色は繁殖期に現れる美しい彩色であり,形態学的変化に属する。形態学的変化は一般的に内分泌系の制御による。これに対し,生理学的体色変化では内分泌系に加えて神経系による調節の例が多くみられ,特に硬骨魚類やカメレオン類では交感神経系が主導的な役割をもつ。無脊椎動物では内分泌系による制御が主体だが例外もある。たとえば頭足類の変化はまったく神経的制御による。この類の体色変化にあずかる構造は,色素顆粒を満たした弾性のある袋状の本体から筋細胞群が皮膚面に平行に,放射状に伸びるという独特のもので,神経の活動による筋肉の収縮・弛緩で本体部の面積の増減,したがって皮膚色の暗化・明化が生じる。
脊椎動物,無脊椎動物を問わず,数種類の色素胞が存在する場合,拡散状態にある色素胞の色素色が体色に反映される。脊椎動物には緑色の色素胞は存在しないが,カエル,カメレオンなどで緑色の状態がよくみられる。これは皮膚の表面側から,黄色素胞,虹色素胞(白色素胞),黒色素胞の順に成層する3種の色素胞群の共存効果によっている。この場合も,黒色素胞中の暗色顆粒(メラノソーム)が虹色素胞を包み込むように張り出した枝状突起部中に拡散すると,虹色素胞内の光散乱性の顆粒が覆い隠され,皮膚色は褐色・暗褐色に変化する。
体色変化を誘起する外界からの刺激の主なものは光であり,特に背地の色に適応する反応では眼が主要な受容器となっている。この際,入射する総光量よりも背地の光反射性が重要な要因となる。すなわち,明色,暗色の背地上では網膜の背側部と腹側部を刺激する光量の比が異なる。この効果が中枢で統合され,神経系,内分泌系を介して体色を明化,あるいは暗化するように色素胞を制御し,隠蔽色を実現する。松果体が光受容体として働く場合には背地効果は生じない。この器官は黒色素胞内の顆粒を凝集させる作用をもつメラトニンmelatonineを産生,分泌する内分泌器官でもある。外界が明るいときは,このホルモンの分泌は抑制されているが,暗所では分泌されるので体色が明化する。この機構による日周期的体色変化も多くの変温脊椎動物で観察されている。胚の発生初期,体表に出現したばかりの色素胞やウニ類の色素胞では,光が直接色素胞に作用して,体色変化を生じる例が知られており,光受容器を介して生じるいわゆる二次体色反応に対し,一次反応と呼ばれている。光のほか,温度・湿度も体色に影響することが知られている。
執筆者:藤井 良三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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