作庭記(読み)サクテイキ

デジタル大辞泉 「作庭記」の意味・読み・例文・類語

さくていき【作庭記】

鎌倉時代の造園書。1巻。著者成立年とも未詳寝殿造り建物に付属する庭園のつくり方を述べた、日本最初の造園書。

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精選版 日本国語大辞典 「作庭記」の意味・読み・例文・類語

さくていき【作庭記】

  1. 平安時代の造園秘伝書。一巻。九条良経著と伝えられてきたが疑問橘俊綱著とされる。長久元年(一〇四〇)頃の成立か。立石中島、滝、遣水などに関し、造園上の要や用語禁忌について述べる。前栽秘抄。園池秘抄。

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改訂新版 世界大百科事典 「作庭記」の意味・わかりやすい解説

作庭記 (さくていき)

平安時代の造庭法秘伝書。《作庭記》という題名は江戸時代からで,塙保己一(はなわほきいち)が集輯した《群書類従》に収録(第362巻)されて広く知られるようになった。最古写本とされる金沢市の谷村家本(2巻,重要文化財)にも表題はなく,古くは《前栽秘抄(せんざいひしよう)》と呼ばれていた。関白藤原頼通の庶子で修理大夫(修理職(しゆりしき)の長官)となり,伏見の自邸が名園で知られた橘俊綱(たちばなのとしつな)(1028-94)が,若年より頼通の邸宅高陽院(かやのいん)をはじめ,多くの貴族の作庭を見聞し,かつ自らの体験をもとに,当時の口伝等をまとめた記録より編集したものとされている。その内容は寝殿造系庭園の形態と意匠に関して,全体の地割りから池,中島,滝,遣水(やりみず),泉,前栽(せんざい)などについて詳述しあますところがない。特に立石(石組み)では〈石の乞わんに従って石を立てる〉とした,平安時代作庭の規範ともいうべき記述が6ヵ所もあり,石組みの仕方にも〈群犬〉や〈母子の牛〉,あるいは〈童部の遊び〉などになぞらえて生き生きとした技法がうかがわれる。また当時特有の作庭上の禁忌についての記載は後世にまで影響を及ぼし,作庭の理念を異にする中世以降の庭園にあってもつねに重視されてきた。《作庭記》は平安時代庭園の研究に最も重要な資料であるとともに,作庭に当たっては自然順応の精神に立脚しながら作者の自由な意匠心や創造力を尊重している点,現代の各種造園にも生かしうる合理性をもつ。その意味で近年ふたたび評価されている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「作庭記」の意味・わかりやすい解説

作庭記
さくていき

平安中期の作庭方法論書。いわゆる庭園の秘伝書として世界最古のもの。全1巻。『前栽秘抄(せんざいひしょう)』『園池秘抄』ともよばれる。寝殿造(しんでんづくり)庭園の地形の取扱い方や、立石(たていし)意匠・技法などについて詳細に述べ、日本庭園の発達に及ぼした影響はきわめて大きい。現存最古の書写本は「谷村家本」で、これは前田家に伝来したものと考えられる。「群書類従本」では、「本云 右一巻以後京極殿御自筆本不違一字書写畢」とあるところから、後京極良経(よしつね)の著書とされていたが、近年の研究では、伏見(ふしみ)修理大夫(しゅりのだいぶ)であった橘俊綱(たちばなのとしつな)(1028―94)の著書とされている。鎌倉期以来、藤原北家に伝承されて作庭の本流とされた。よってこの派の人々を「作庭記流」といっている。

[重森完途]

『久垣秀治著『作庭記秘抄』(1979・誠文堂新光社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「作庭記」の意味・わかりやすい解説

作庭記
さくていき

日本最古の造園書であるとともに,純粋な造園書としては世界最古の書。前田家に伝わった鎌倉時代初期のものと思われる写本が最も原本に近いと考えられるが,原形は不明。作者は平安時代後期の藤原頼通の子橘後綱とする説が有力であるが,未詳。平安時代に展開したとみられる日本独特の作庭法が,池,遣水,立石などきわめて具体的に詳述されている。

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世界大百科事典(旧版)内の作庭記の言及

【石組み】より

…《拾芥抄》には〈石を畳む〉という平安時代初めの記事が見られ,巨勢金岡(こせのかなおか)が神泉苑監として平安京神泉苑の石組みを行ったことが知られる。また平安時代の造園書《作庭記》では〈石を立てる〉と表現され,その立て方を大海,大河,山河,池沼,葦手(あしで)の五つに分けて説いている。室町時代の《山水幷野形図》では,石に仏の名を冠し,石組みに儒教や仏教の縁語を結びつけて解説している。…

【庭園】より

…遣水の流路とその護岸としての石立は,流れに変化をつけるもので,水が石につきあたって白く波だつ面白さや水音にもこまかく気が配られた。 寝殿造の庭がとくに詳しくわかっているのは,当時の公家橘俊綱が書いたといわれる《作庭記》がのこされているからである。《作庭記》には自然の風景からモティーフを得るという主張が貫かれている。…

※「作庭記」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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