一つの属または種に含まれる生物の間に,倍数関係にある染色体数のみられることがある。例えば,一粒系,二粒系,普通系とよばれる3系のコムギ(それぞれの代表は一粒コムギ,マカロニコムギ,パンコムギ)は体細胞の染色体数(2nで表す)が14,28,42である。染色体数にみられるこのような倍数関係を倍数性という。この倍数系列のうち,もっとも染色体数の少ない種の配偶子の染色体数を基本数basic numberとよび,xで表す。コムギとその近縁種属ではx=7であり,3系のコムギの染色体数はそれぞれ2x,4x,6xで示される。
体細胞の染色体数が1x,2x,3x,……の生物は一倍体,二倍体,三倍体,……とよばれる。二倍体と四倍体の雑種は三倍体に,四倍体と六倍体の雑種は五倍体になる。三倍体以上を倍数体polyploidというが,これに二倍体を含める場合もある。ふつう,x個の染色体が一つのゲノムを構成するので,一倍体,二倍体,三倍体,……は1個,2個,3個,……のゲノムをもつことになる。一つの倍数体が同一種類のゲノムからだけなるとき,これを同質倍数体autopolyploidという。そして,ゲノム構成がAA,AAA,AAAA,……のものを同質二倍体,同質三倍体,同質四倍体,……とよぶ。他方,種類の異なる複数のゲノムからなる倍数体を異質倍数体allopolyploidという。異質四倍体を例にとれば,AAAB,AABB,AABC,ABCDという4種類のゲノム構成が考えられる。また,ゲノム構成がAABBやAABBCCのように,2種類以上のゲノムがそれぞれ2個ずつ存在すると,減数分裂において二価染色体のみが形成され,染色体の行動からは二倍体と区別できない。この型の異質倍数体をとくに複二倍体amphidiploidという。
植物の同質倍数体には,二倍体に比べ,生育力が旺盛で種々の器官が肥大し,環境のストレスに強いものが多い。稔性はふつう低い。とくに三倍体はほぼ完全な種なしになる。一方,複二倍体型の異質倍数体にはそれぞれのゲノムの長所をもち,雑種強勢現象を現し,かつ高い稔性をもつものが多い。倍数性の種はとくにシダ植物や被子植物に多くみられ,氷河の後退したあとに成立した植物相に高頻度に出現する。北極海に浮かぶスバールバル諸島では調査された145種の76%までが倍数体である。
上述した倍数体のもろもろの性質は作物にとっても有用である。栄養繁殖する作物には同質倍数体が多い。バレイショ,サツマイモの品種はすべて倍数体であるし,テンサイ,リンゴ,チャなどには同質倍数体の品種が多い。三倍性による種なし性を利用したものにはバナナや種なしスイカがある。複二倍体型の作物もまた多い。タバコ,ワタなどはその好例であるが,この型の倍数体は稔性が高いので,種子を利用するコムギ,エンバク,ナタネのような作物にこの型の優秀な品種群が成立している。このような倍数体を積極的に品種育成に活用する分野を倍数性育種polyploid breedingといい,人為的に倍数体をつくる方法がいろいろくふうされている。同質四倍体は二倍体をコルヒチン(イヌサフランの球根に含まれるアルカロイド)で処理すれば容易に得られる。同質三倍体は二倍体と四倍体の交雑からつくることができる。異質倍数体のうち,育種的にもっとも重要な複二倍体は,人為的につくった種間(または属間)雑種をコルヒチンなどで処理して育成する。
執筆者:常脇 恒一郎
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…なお核性突然変異に対して,葉緑体やミトコンドリアなどの細胞小器官の遺伝物質の突然変異を細胞質性突然変異というが,細胞質性突然変異は伝達の様式(これについては〈細胞質遺伝〉の項目を参照)が特異的である点を除いて,突然変異の起こる機構としては核性突然変異の場合と基本的な違いはない。
[ゲノム突然変異]
生物は種に固有の染色体構成(ゲノム)をもっているが,それが組として増減するのが倍数性であり,一部の染色体だけが増減するのが異数性である(図1)。これらをゲノム突然変異と呼ぶ。…
※「倍数性」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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