雑種強勢(読み)ザッシュキョウセイ(その他表記)hybrid vigor

デジタル大辞泉 「雑種強勢」の意味・読み・例文・類語

ざっしゅ‐きょうせい〔‐キヤウセイ〕【雑種強勢】

一代雑種(F1)が両親よりも大きさ・繁殖力抵抗性などですぐれていること。畜産や農業で飼育・栽培に利用される。ヘテロシスハイブリッドビガー

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精選版 日本国語大辞典 「雑種強勢」の意味・読み・例文・類語

ざっしゅ‐きょうせい‥キャウセイ【雑種強勢】

  1. 〘 名詞 〙 雑種第一代が体の大きさ、増殖力、抵抗性などで両親よりも優れていること。例えば蚕の雑種が両親より強健で発育がよく、糸量も多いなど。畜産や農業で、飼育、栽培に利用される。ヘテロシス。

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改訂新版 世界大百科事典 「雑種強勢」の意味・わかりやすい解説

雑種強勢 (ざっしゅきょうせい)
hybrid vigor

ヘテローシスheterosisともいう。生物の種間または品種間の交雑を行うと,その一代雑種はしばしば両親のいずれよりも体質が強健で発育がよいという現象がみられる。これを雑種強勢といい,農作物,家畜の品種改良にしばしば利用される。最初トウモロコシで発見され,ついで動物でもモルモットで認められた。

 一方,異なった個体間の受精によって繁殖することを常態とする他殖性作物(トウモロコシなど)を,強制的に自殖(同一個体内で受精させる)させたり,近親間の交配を繰り返したりすると,子孫(後代)の生育がしだいに劣ってくる例が多い。これを自殖弱勢といい,雑種強勢と逆の関係になる。また,特定の遺伝的な効果によって雑種第1代の生育がまれに弱勢化することがある。これは雑種弱勢hybrid weaknessといわれる。

雑種強勢は染色体上に存在する遺伝子相互作用によって説明される。交雑によって生ずる次代の個体の細胞核内には,遺伝に関与するいくつもの染色体(多数の遺伝子を含む)があるが,それらの染色体は2本ずつが対合しており,各1本が両親から伝わったものとなっている。この対合している染色体上の対をなす二つの遺伝子に着目してみると,両者の作用が同じ場合(ホモまたは同型という)と,異なる場合(ヘテロまたは異型という)とがある。対になる二つの遺伝子がヘテロのとき,遺伝子の働きに優劣関係が生ずることがある。一般に生物個体のもつ優性遺伝子の数が一定だとすると,ホモよりヘテロの割合の高いほうが優性遺伝子の種類は多くなる。優性遺伝子の種類が多いと,それら遺伝子が相互に補完し,その協同作用によって個体の生育がより旺盛になるだろうと推定される。これが雑種強勢を説明する優性説である。これに対して,ヘテロの性質そのものが生物の生育を旺盛にすると推定する説が超優性説である。すなわち対をなす遺伝子座内のヘテロの遺伝子の相互作用そのものが有利に働いて,優性・劣性を問わず単純なホモ対合のいずれよりも勝るという考え方である。おそらく,優性説(遺伝子座間の相互作用)と超優性説(遺伝子座内の相互作用)の説く機構の両方が雑種強勢に関係していると思われる。いずれにしても,致死遺伝子やこれに近い不良な遺伝子は劣性のことが多いので,ヘテロ性の高い雑種ではこれらの遺伝子の発現が抑えこまれる利点がある。

雑種強勢の特徴を生かして行う育種法(品種改良法)で,他殖性作物,家畜などではもっとも重要な育種法であり,近年この原理を生かして自殖性作物にも適用が広がってきている。この育種法は一代雑種育種法と合成品種育種法に大別される。

(1)一代雑種育種法 交雑によって生ずる次世代(雑種第1代,F1ともいう)にはもっとも強く雑種強勢が現れる。この雑種第1代を利用する育種法である。この育種法では適切な両親を選ぶことと,自殖を防止し,交配によりF1種子を容易に採種する方法を確立することがたいせつである。この点で雌雄異株作物(ホウレンソウ)や雌雄異花作物(キュウリ,トウモロコシ)などはF1採種に好都合である。また同一個体内では受精の起こらない自家不和合性作物(アブラナ科作物,テンサイ)も,自殖を避けるための除雄(花粉を取り除くこと)作業が不必要なので有利である。一方,F1よりもさらに次の世代のF2(雑種第2代)になれば,飛躍的に供試種子量を増やすことができるので,実用的に差しつかえのない場合や,F1種子(交配種子)が少ない場合にはF2種子(F1から採種した種子)の利用が普及している。なお,遺伝的に雄性器官が不稔となる雄性不稔現象を併用するようになってから,この一代雑種育種法はさらに広まり,自殖性作物(イネ,コムギオオムギなど)にも適用され始めている。雄性不稔現象は広範囲の作物で見つけられているが,この現象は核遺伝子に由来するものと,細胞質に由来するものとがあり,育種に利用されやすいのは後者の細胞質雄性不稔である。ただし,種子を生産対象とする作物の場合には,稔性回復遺伝子を同時に組み込んでおかないと種子が実らない。技術的には雑種交配のとき,雌側に細胞質雄性不稔の因子を,また雄側に稔性回復遺伝子をそれぞれもたせるような処置が講ぜられる。

(2)合成品種育種法 複数の自殖系統や栄養系の間で相互に交配させ,その後は自然受粉によって種子増殖を図る方法である。育成された合成品種の種子を半永久的に,一定の遺伝の性質をもたせたまま,農家に繰り返し供給できる。また,農家が自家採種することもできるし,集団としての変異性が大きいので環境の異なる広い地域にわたっての栽培にも適する。このようなことから,とくに,一度播種(はしゆ)すれば数年間にわたって利用する牧草などの育種に適した方法である。現在は牧草のほかに,トウモロコシなどにも積極的に利用されている。合成品種育種が発展してくると,この育種法の中の一部をいろいろな形でとりあげ,他の育種法に組み込むことが検討されるようになった。たとえば世界中の幅広い遺伝的変異性をもった集団を育成して,各国でこの集団から選抜育種をすすめる方法が考案されている。メキシコにある国際トウモロコシ・コムギ改良センターCIMMYT)が一つの中心となって,この方面の研究を続けている。
執筆者:

動物の場合には,生産に従事する実用畜と繁殖に供用される種畜とが判然と区別される動物,たとえばカイコ,ニワトリ,ブタなどで組織的に利用されている。日本の養蚕業では一般養蚕家の飼育するカイコは原蚕種管理法により,雑種のみを飼育して繭生産を行っている。ニワトリも純粋種を飼うのは一部の種鶏家だけで,採卵養鶏業者またはブロイラー養鶏業者は種鶏家の生産する一代雑種または三元交雑種・四元交雑種を購入し,卵や肉の生産に従事する。種鶏家は純粋な系統を維持するとともに,雑種に強力な雑種強勢現象が現れるような系統の組合せを正逆反復選抜法によって見いだして,生産性の高い雑種を作出するのである。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「雑種強勢」の意味・わかりやすい解説

雑種強勢
ざっしゅきょうせい
hybrid vigor

遺伝的に異なる両親の間に生じた雑種に現れる、生育、生存力、繁殖力などの優れた性質をいい、ヘテローシスheterosisともよばれる。自殖潜性の逆の現象である。すべての雑種に現れる現象ではなく、両親の組合せによってその程度が異なる。一般に同一種内の遠縁のものの間の組合せほど雑種強勢が強く現れるが、あまり遠縁のものはかえって生育の不良な雑種弱勢を示すことがある。

 雑種強勢は、雑種性の程度と深く関係しており、雑種第一代(F1)にもっとも著しく現れ、以下、雑種世代が進むにしたがってしだいに強勢の程度が減少する。

[井山審也]

雑種強勢の現象

ドイツの植物学者J・G・ケルロイターのタバコを用いた広範な雑種研究で1760年代に発見されたが、これが農業生産に実用化されたのは、1900年代初めのアメリカの研究者ヘイズHerbert Kendall Hayes(1884―1972)、イーストEdward Murray East(1879―1938)、シャルGeorge Harrison Shull(1874―1954)らのトウモロコシの雑種強勢の研究に始まる。アメリカのトウモロコシの生産は、一代雑種の利用によって飛躍的に増大した。日本でも、1914年(大正3)にすでにカイコの一代雑種品種の利用が蚕糸試験場で開発され、その後、急速に全国に普及した。雑種強勢の利用は、異なる両親の間の交雑を必要とするので、交雑種子の得られやすい他殖性の作物に広く適用されてきたが、やがて遺伝的に花粉などの受精能力を不能にする細胞質雄性不稔(ふねん)の利用などによって、イネなどの自殖性の作物にも応用されるようになった。現在では、ほとんどのニワトリ、カイコなどの動物、トウモロコシ、トマト、タマネギ、モロコシ(自殖性作物)など植物の品種が一代雑種品種となり、また多くの野菜類、花、林木、家畜などの生産に利用されている。

[井山審也]

雑種強勢の原因

生存に有利な遺伝子が、不利な遺伝子に対して顕性であって、そのような遺伝子の数が多いと、一方の親にそのような有利な遺伝子をすべてホモの状態で集めることは非常にむずかしい。とくに遺伝子の数が多いと、限られた数の染色体上にそれらが連鎖している可能性が高いので、有利な遺伝子だけを一方の遺伝子型に集めることはさらにむずかしい。このような、有利な遺伝子も不利な遺伝子ももっている両親の間の交雑を行ったとき、F1はヘテロの状態になって、互いに一方の親からきた不利な潜性遺伝子の表現を、他方の有利な顕性対立遺伝子が覆い隠してしまう確率が高くなる。そのようにして生じたF1は、両親のいずれよりも有利になるという説明で、顕性遺伝子連鎖説といわれる。それと対立する別の説明は、超顕性説である。一つの遺伝子座について、ヘテロ接合型が両親のいずれのホモ接合型よりも優れている現象を超顕性という。両親の交雑によって、その間で異なる遺伝子がヘテロ接合型となって雑種強勢が現れるという説である。実際にはおそらくこれらの両方の現象がおこっているものと思われる。

[井山審也]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「雑種強勢」の意味・わかりやすい解説

雑種強勢
ざっしゅきょうせい
heterosis

雑種第1代がその生産性,耐性などの生活力で,両親のいずれの系統よりもすぐれる現象で,逆の場合の雑種弱勢に対する語。トウモロコシ,蚕,鶏などでは昔から知られており,実際に利用されてきた。一般に同系交配を続けたのちの交雑において特に著しいが,生殖能がなかったり (ラバ) ,雑種第2代では現れなかったりするから,常に原種の純系を用意する必要がある。なぜ雑種強勢現象が起るかについては,雑種第1代における対立遺伝子の相互作用説,ほかの異なる優性遺伝子の共存説,さらには環境説などあるが,まだ不明な点が多い。

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百科事典マイペディア 「雑種強勢」の意味・わかりやすい解説

雑種強勢【ざっしゅきょうせい】

ヘテローシスとも。生じた雑種が,両親のどちらよりもすぐれた生活力をもつ場合をいう。モウコウマの雌とロバの雄との交配によるラバの例は有名。ほかにトウモロコシや各種の野菜類,カイコなどの品種改良の手段として利用されている。この現象は,染色体上の遺伝子の相互作用によって説明される。生活力の劣る雑種の生ずる場合は,雑種弱勢という。
→関連項目雑種

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世界大百科事典(旧版)内の雑種強勢の言及

【一代雑種】より

…農業上利用価値が高いのでこのいい方が用いられている。雑種が両親よりも旺盛な生育を示す現象を雑種強勢というが,この雑種強勢は両親がかなり遠縁のとき効果が高い。また純系に近い生物間の交配でも雑種強勢が強くでる。…

【混血】より

…ただしこの種の実例はごく少ない。(4)雑種強勢 動植物の雑種は体の大きさ,増殖力,抵抗性などの点で両親のどちらよりもまさる場合が多い。このような雑種強勢の現象がヒトにもありうることは疑う余地がないし,混血児に現れたという報告も多いが,確実な例は比較的乏しい。…

【品種改良】より

…こうすると均一で,品種としての条件を満たした多数の個体が得られる。(4)雑種強勢育種法 トウモロコシや多くの野菜類などの他殖性作物に主として適用される。他殖性作物を無理に自殖させたり,近親交配をさせると自殖弱勢,近交弱勢を起こし生育が劣化する。…

※「雑種強勢」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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