改訂新版 世界大百科事典 「光スペクトル」の意味・わかりやすい解説
光スペクトル (ひかりスペクトル)
光を分光器によって分解したとき,波長または振動数の関数として与えられた光の強度分布をいう。単にスペクトルspectrumと呼ぶことが多い。ニュートンが,プリズムを通した太陽光が赤,だいだい,黄,緑,あい,紫の色光に分解されるのを観測し,これをスペクトルと名付けたのが最初である。このように元来は可視域の光に対して用いられた語であるが,現在では電波,赤外線,紫外線,γ線など電磁波の全領域に拡張されて用いられており,さらに電磁波に限らず,ある特定の量を分析して順序だてて配列したものをスペクトルと呼んでいる(スペクトル)。
光のスペクトルはその構造によって,ある範囲にわたって連続的に分布する連続スペクトル,特定の波長のところに線状に配列する線スペクトル,幅の狭い帯状に配列する帯スペクトルに分けられる。また連続スペクトルをもつ光が物質を通過したとき,その物質に特有な波長領域が吸収されて欠けるか弱められたものを吸収スペクトルといい,これに対して,物質から放出される光のスペクトルを発光スペクトルまたは放射スペクトルという。
原子が放出または吸収する光のスペクトルを原子スペクトルといい,一般には線スペクトルである。原子や固体中のイオンの電子状態の間の遷移に対応するスペクトル線はおもに可視から紫外の領域に現れ,励起状態の間の遷移は赤外領域にも現れる。分子が放出または吸収する光のスペクトルは分子スペクトルと呼ばれ,これは,電子状態間の遷移に対応する部分,分子を形成している原子の振動状態の遷移に対応する部分(振動スペクトルという)および分子の回転状態の遷移に対応する部分(回転スペクトル)に分けて考えることができる。このうち,電子遷移に対応するスペクトル線はほとんどが紫外領域に現れ,可視領域に現れることはまれである。振動スペクトルは赤外域に,回転スペクトルは遠赤外からマイクロ波領域に現れ,また後者は分解能の劣る分光器では帯スペクトルとして観測される。
分光学の歴史の中で,最初に詳しく調べられたのは可視域のスペクトルで,この研究とともに量子力学が作られてきたといっても過言ではない。光は目に見えるということが,研究対象に選ばれる有利な条件であったことはもちろんであるが,この波長領域は分光装置,光学材料,検出器などの研究資材にも恵まれていて,現在でももっとも精度の高い測定がこの領域で行われている。
→原子スペクトル →微細構造 →分子スペクトル
執筆者:清水 忠雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報