連続スペクトルをもつ光または放射線が物体を通過する際、この物体による吸収のために連続スペクトルの各所に暗黒な部分が現れる。これを一般に吸収スペクトルという。フラウンホーファーは太陽のスペクトルを分光器を用いて観測し576本もの黒線を発見し、それらのおもな線に波長の長いほう(赤いほう)から順にA、B、Cといった符号をつけた。これがフラウンホーファー線であるが、それが太陽スペクトルの吸収線であることは、のちにキルヒホッフによって明らかにされた。たとえばD線はナトリウム原子による吸収線である。ナトリウムや水銀の蒸気などでは容易に線状の吸収スペクトルが観察できる。しかし一般には原子吸収スペクトルはきわめて先鋭なので、十分先鋭な単色光源(ホローカソード管など)を用いなければ、原子蒸気による吸収を観測することはできない。原子吸収の測定により化学分析を行う方法を原子吸光分析法といい、広く用いられている。
分子による吸収スペクトルは簡単な気体分子などの場合には線構造を示すが、複雑な分子では線状構造の認めがたい帯スペクトルを与える。液体、固体では明瞭(めいりょう)には分解しない帯スペクトルを与える。吸収スペクトルは物質の化学構造によって決まる。すなわち、分子内の振動、回転などに対応するエネルギー吸収の結果生ずるので、有機化合物の構造決定、分析などに広く利用される。利用される波長域は、観測すべき分子のエネルギー準位に応じて、紫外部から可視、赤外およびマイクロ波領域にまで及ぶ。マイクロ波を用いる星間物質の探索は電波天文学の重要なテーマである。
[中島篤之助]
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物質による光の吸収の振動数あるいは波長分布.通常,吸収はランベルトの法則に従うので,吸収係数または吸光係数の振動数分布で表すことが多い.気体では線スペクトルになるが,液体や固体ではある振動数領域に広がって構造をもった連続スペクトルを示すことが多く,低温では一般にスペクトル幅は狭くなる.吸収スペクトルが可視光域にかかるときは,物質は有色となる.可視光・紫外光域の吸収スペクトルは電子準位の研究に用いられ,蛍光・りん光の励起スペクトルや光電導の作用スペクトルとの関連が深い.赤外光域の吸収スペクトルは分子の振動準位の研究に用いられる.
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… 光のスペクトルはその構造によって,ある範囲にわたって連続的に分布する連続スペクトル,特定の波長のところに線状に配列する線スペクトル,幅の狭い帯状に配列する帯スペクトルに分けられる。また連続スペクトルをもつ光が物質を通過したとき,その物質に特有な波長領域が吸収されて欠けるか弱められたものを吸収スペクトルといい,これに対して,物質から放出される光のスペクトルを発光スペクトルまたは放射スペクトルという。 原子が放出または吸収する光のスペクトルを原子スペクトルといい,一般には線スペクトルである。…
※「吸収スペクトル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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