分子をばらばらにして構成原子にまで分離するのに要するエネルギーを、分子内の結合に割り当てられるとして算出したエネルギー。この値は結合の強さを知る目安である。二原子分子では結合エネルギーは解離エネルギーに等しい。多原子分子では、標準生成エンタルピーの測定値を用いて、結合エネルギーを求める。たとえば、アンモニアNH3のNH結合の結合エネルギーは1モル当り391キロジュールである。
炭素と水素との結合エネルギーは1モル当り413.4キロジュール、単結合の炭素‐炭素結合のそれは1モル当り347.7キロジュールとされている。
アメリカのポーリングは二原子分子の結合エネルギーを比較して、共有結合の部分的イオン性の存在を認め、原子の電気陰性度を提案している。
[下沢 隆]
原子核を構成しているすべての核子(陽子と中性子)を互いに完全に引き離して、ばらばらにするのに必要なエネルギーを原子核の全結合エネルギーという。一般に、Z個の陽子とN個の中性子からできている原子核の質量は、陽子質量のZ倍と中性子質量のN倍との和よりも小さい。この質量の少なくなっている分を質量欠損という。全結合エネルギーは質量欠損をエネルギーの単位で表したものとなっており、アインシュタインの特殊相対性理論における「エネルギーと質量の同等性」の一例といえる。核子が互いに引力で引き合って結合しているために、原子核全体の質量がその分だけ軽くなるのである。
原子核の全結合エネルギーをその核子数で割って得られる1個あたりの平均結合エネルギーは、非常に軽い原子核を除いて、約800万電子ボルトであるが、詳細にみると、核子数の増加とともに増加し、鉄の原子核(核子数56)を頂点としてふたたび減少していく。核分裂や核融合がおこるのはこのように核ごとに安定性が異なるためである。また、マジック・ナンバーまたは魔法の数(2、8、20、28、50、82、126など)とよばれる特別な陽子数または中性子数の原子核では、結合エネルギーがとくに大きいことがわかっている。全結合エネルギーが陽子数と中性子数とによってなぜこのように変わるかを理論的に研究して表したのが、ワイツゼッカーとベーテの質量公式であるが、これは、自然界に存在しない新しい原子核をつくりだしたりするうえで大いに役だっている。結合エネルギーということばは、原子核から1核子を切り離すのに必要な1核子結合エネルギー(分離エネルギー)とか、二つの原子核クラスターに分割するのに必要なエネルギーとかの意味でも用いられる。
[坂東弘治・元場俊雄]
原子核や分子,結晶などのように多数の粒子からなる体系において,これをその構成粒子に分離するのに要するエネルギー。その値が大きいほど結合の度合は強いとみなされる。理論的には,各構成粒子の最低状態におけるエネルギーの和と,体系の最低状態のエネルギーとの差として定義される。ただし原子核の場合には,核を作っている陽子,中性子の質量の和と,実際の核の質量との差を結合エネルギーとして考えるのがふつうである。多くの同種の構成粒子をもつ原子核や結晶では,ふつう1構成粒子当りの結合エネルギーを考え,原子核ではこれを比結合エネルギーと呼んでいる。また分子においては,その分子全体の結合エネルギーを解離エネルギーenergy of dissociationと呼び,化学構造式におけるある一つの結合手についての値を結合解離エネルギーbond dissociation energyと呼び,略して結合エネルギーと呼ぶ習慣がある。結晶の結合エネルギーは昇華熱として実験的に測定される。分子や結晶の結合エネルギーは数eV程度またはそれ以下である。これに対して原子核の結合エネルギーはきわめて大きく(核子1個当り数MeV程度),これが原子核反応の際に放出される膨大な原子エネルギー(原子力)の源である。
執筆者:中川 康昭
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分子内の各結合に固有なエネルギーをいう.分子を基底状態の原子に解離するのに要するエネルギーは,各結合に固有な結合エネルギーの和で与えられる.たとえば,水分子のO-H結合のエネルギーは,
H2O → H + OH(501.7 kJ mol-1)
OH → O + H(423.4 kJ mol-1)
の平均値457.9 kJ mol-1 として与えられる.このようにして与えられた結合エネルギーを用いて,分子の解離エネルギーを計算することができる.たとえば,エタンの解離エネルギーは2829 kJ mol-1 であるが,これは6本のC-Hの結合エネルギー
6 × 413.4 = 2480 kJ
と1本のC-C結合のエネルギー347.7 kJ の和2828 kJ として求めることができる.しかし,共鳴がある場合にはこのような加成性は成り立たない.たとえば,ベンゼンの場合,ケクレ構造に対して結合エネルギーから計算される値は,共鳴エネルギーのために,実測の解離エネルギーよりも小さくなる.
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…この質量の減り高(質量欠損という)は陽子と中性子が核力によって結合し,その位置エネルギーの低い状態,つまり全エネルギーの小さな状態に落ち着いたために生じたものと理解できる。この意味で,⊿mc2は陽子と中性子の結合エネルギーを与えていることになる。1kgはmc2から計算すると,9.00×1016Jに当たるから,重陽子の結合エネルギーは3.6×10-13J(=2.2×106eV)となる。…
…解離に必要なエネルギーを解離熱あるいは解離エネルギーといい,たとえば,二原子分子の塩素Cl2,水素H2,酸素O2,窒素N2の解離熱はそれぞれ243,436,495,942kJ/molで,解離熱が小さいものほど解離しやすい。これらの値は,二原子分子をつくる化学結合の強さを表し,結合エネルギーとも呼ばれる。固体物質の熱解離により気体物質をつくる場合,たとえば炭酸カルシウムの解離反応 CaCO3(s)⇄CaO(s)+CO2(g)で,二酸化炭素CO2の平衡分圧は温度のみによる定数となり,これを炭酸カルシウムの解離圧という(かっこ内のsは固相,gは気相を表す)。…
…化学結合を切断するためにはあるエネルギーを必要とし,逆に化学結合がつくられるときにはあるエネルギーが放出される。これらのエネルギー値を結合エネルギーという。反応熱は,その反応によって生成・切断される化学結合がもつ結合エネルギーの収支を表すものとなる。…
…
[原子核物理学の発達]
この分野の研究は,その後続々と発見された新しい粒子と,その間の相互作用を扱う素粒子物理学と原子核そのものを研究対象とする原子核物理学とに分かれ,後者では,原子核のさまざまな性質を核力から出発して説明しようとする基礎論と,比較的簡単な模型(原子核模型)によって観測されている事実を系統的に記述しようとする現象論とが並行して発達した。原子核模型としては,まず,原子核の核子密度や核子当りの結合エネルギーが質量数にあまり依存しないという飽和性から,原子核を液滴で近似する液滴模型が提唱され,この模型は原子核のおおまかな性質を説明するのに成功すると同時に,核分裂過程,原子核の集団運動,さらには最近の重い原子核どうしの衝突などを記述する模型の出発点となっている。一方,陽子数または中性子数が魔法数と呼ばれる特別の数となる原子核は安定であることや原子核のスピンを説明するために,原子で成功した殻模型がM.G.メイヤー,H.D.イェンゼンによって導入された。…
…この差を質量欠損と呼ぶ。すなわち,陽子数Z,中性子数Nの原子核の質量をm(Z,N),陽子の質量をmp,中性子の質量をmpとすると,質量欠損はZmp+Nmn-m(Z,N)で与えられ,質量とエネルギーの等価性により,これに光速の2乗をかけたものがその原子核の結合エネルギーになる。非常に軽い原子核を除いて,結合エネルギーはだいたい質量数A=Z+Nに比例し,その比例係数は8MeV程度である。…
※「結合エネルギー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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