入江泰吉（読み）イリエタイキチ

デジタル大辞泉

いりえ‐たいきち【入江泰吉】

［1905～1992］写真家。奈良の生まれ。大和路やまとじの風物・仏閣・仏像を撮影。代表作に「万葉大和路」「仏像の表情」など。奈良市写真美術館に全作品が収められている。

出典　小学館

日本大百科全書(ニッポニカ)

入江泰吉
いりえたいきち
（1905―1992）

写真家。奈良市生まれ。第二次世界大戦直後から晩年まで奈良・大和路の風景や古寺を撮影しつづけた。1921年（大正10）奈良女子高等師範（現、奈良女子大学）付属小学校高等科卒業。10代後半から写真撮影に親しむようになり、1925年大阪のカメラ卸店に入社。1931年（昭和6）大阪市南区で写真店光芸社を開業。機材販売や写真の現像・引き伸ばし、商品写真、記録映画の撮影などを幅広く手がける。1939年より文楽人形の撮影に熱中、第二次世界大戦中の1942年、大阪高島屋で初個展「文楽人形写真展」開催。1945年大阪大空襲で自宅が全焼し、奈良の生家に戻る。戻ってからは評論家亀井勝一郎の著作『大和古寺風物誌』に触発され、古寺を訪ね歩くようになり、敗戦後、東大寺、法隆寺、唐招提寺、薬師寺などの仏像撮影に取り組む。1946年（昭和21）幼なじみの東大寺観音院住職上司(かみつかさ)海雲（1906―1975）（後に東大寺管長となる）と再会し、彼を通じて志賀直哉、小林秀雄、杉本健吉、須田剋太(こくた)（1906―1990）らの文学者、画家たちと交流。以後、仏像だけでなく、奈良盆地一帯の古寺や民家のある眺め、旧道沿いの風景、東大寺二月堂の御水取などの行事にもレンズをむけ、丹念で息の長い撮影を展開。1958年小林秀雄の勧めで初の個人作品集『大和路』を刊行。本書とその続巻『大和路　第二集』（1960）において、自然と人間の営みにより歴史的に形成されてきた風土を沈着かつ詩情豊かに描写していく作風を確立した。

　1964年ごろ、それまでおもに用いていた白黒写真から、カラー撮影を中心とする時期へ移行。1966年日本写真協会功労賞受賞。写真集『古色大和路』（1970）、『萬葉　大和路』（1974）、『花大和』（1976）の三部作により1976年菊池寛賞受賞。1992年（平成4）、86歳で没。同年、入江の遺した全作品と愛蔵品を収蔵する奈良市写真美術館（財団法人入江泰吉記念美術財団運営）が奈良市高畑町に開館した（2007年に「入江泰吉記念奈良市写真美術館」と改称）。

［大日方欣一　2017年1月19日］

『『大和路』（1958・東京創元社）』▽『『大和路　第二集』（1960・東京創元社）』▽『『お水取り』（1968・三彩社）』▽『『古色大和路』（1970・保育社）』▽『『唐招提寺』（1973・毎日新聞社）』▽『『萬葉　大和路』（1974・保育社）』▽『『花大和』（1976・保育社）』▽『『大和路のこころ』（1977・講談社）』▽『『現代日本写真全集　日本の美　第3巻　四季大和路』（1978・集英社）』▽『『入江泰吉写真全集』全8巻（1981～1982・集英社）』▽『『大和しうるわし』（1984・佼成出版社）』▽『『入江泰吉　大和路巡礼』全6巻（1985～1986・集英社）』▽『『入江泰吉の大和路』全5巻（1996・小学館）』▽『『日本の写真家10　入江泰吉』（1997・岩波書店）』

出典　小学館　日本大百科全書(ニッポニカ)

20世紀日本人名事典

入江 泰吉
イリエ タイキチ

昭和期の写真家

生年

明治38(1905)年11月5日

没年

平成4(1992)年1月16日

出生地

奈良県奈良市

学歴〔年〕

高小卒

主な受賞名〔年〕

毎日出版文化賞〔昭和29年〕「民家の庭」,奈良県文化賞〔昭和36年〕,世界書籍展ゴールドメダル賞〔昭和50年〕「万葉大和路」,国際ポスター展銀賞(ミラノ)「奈良大和路観光ポスター」,菊池寛賞(第24回)〔昭和51年〕,勲四等旭日小綬章〔昭和53年〕,勲四等瑞宝章〔昭和53年〕,仏教伝導文化賞(文化賞B 第19回)〔昭和59年〕,日本放送協会長賞〔昭和60年〕

経歴

昭和2年写真家を志して大阪に移り住み独学で修業。6年独立して大阪で写真店を開く。16年組み写真「文楽」が日本写真美術展文部大臣賞を受賞し、写真家となる。20年戦災に遭い奈良に帰り、21年東大寺の上司海雲を軸に“天平の会”を結成。24年大和古寺風物写真展を開き、ライフワークを大和路に定め、33年写真集「大和路」を出版。他の写真集に「図説・東大寺」「古色大和路」「大和路百景」「四季の大和路」「万葉大和路」「花大和路」「入江泰吉写真全集」(8巻)など。平成元年全作品約8万点のフィルムを奈良市に寄贈、没後の4年奈良市写真美術館としてオープンした。

出典　日外アソシエーツ「20世紀日本人名事典」（2004年刊）

デジタル版 日本人名大辞典+Plus

入江泰吉 いりえ-たいきち

1905－1992　昭和時代の写真家。
明治38年11月5日生まれ。昭和6年大阪で写真店を開業。16年日本写真美術展に「文楽」を出品し,文部大臣賞。20年故郷奈良にもどり,大和路の風景・風物を一貫してとりつづけた。「古色大和路」「万葉大和路」「花大和」で51年菊池寛賞。平成4年1月16日死去。86歳。

出典　講談社

367日誕生日大事典

入江 泰吉 (いりえ たいきち)

生年月日:1905年11月5日
昭和時代の写真家
1992年没

出典　日外アソシエーツ「367日誕生日大事典」