公孫竜(読み)コウソンリュウ

デジタル大辞泉 「公孫竜」の意味・読み・例文・類語

こうそん‐りゅう【公孫竜】

中国戦国時代ちょう思想家あざな子秉しへい白馬非馬論堅白同異論などの詭弁きべん的議論で知られ、批判も受けたが、概念差異を分析し、意味論論理学を発達させた功績は大きい。「公孫竜子」6編が残存生没年未詳

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「公孫竜」の意味・わかりやすい解説

公孫竜
こうそんりゅう

中国、周末戦国期(前3世紀)の名家に属する思想家。紀元前284年から前258年までの間は生存していたと考えられるが、生没年は未詳。趙(ちょう)国出身で、同国の豪族平原君(へいげんくん)の食客となり優遇されたが、のちに五行思想家の鄒衍(すうえん)が厚遇されたため退いた。その思想は現存『公孫竜子』6篇(へん)に残されている。普通、論理学派とされるが、公孫竜は論証だけに関心があったわけではない。論証を通じて認識論を体系的に組み立てた点を評価すべきである。

 6篇のうち、根本となるのは「名実論」である。彼は、物(物体)を構成するものを実(物質・内容・質料)とし、その実を制限するものを位(形式・形相)とし、そのような認識過程ののちに物に名(名称)を与えることができるとし、そのように命名された物は他と区別される個物とする。「白馬論」では、形式(馬)と属性(白)とは厳密に区別すべきであることをいう。「堅白論」では、本質的属性である〈堅いこと〉と偶有的属性である〈白いこと〉との区別をいう。「指物論」では、対象である物と指示行為と指示者との三者の関係とその区別をいう。「通変論」は難解であるが、数の概念や分類分別の方法を述べている。「跡府」は、公孫竜の弟子たちによる師の略伝と入門書である。この内容を総じていえば、概念論であり意味論である。その哲学的立場は唯名論的である。継承者は一度絶えるが、魏(ぎ)・晋(しん)・南北朝期の名理論争において再評価され、その後は道家側の文献として扱われる。

[加地伸行 2015年12月14日]

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改訂新版 世界大百科事典 「公孫竜」の意味・わかりやすい解説

公孫竜 (こうそんりゅう)
Gōng sūn Lóng
生没年:前320ころ-前250ころ

中国,戦国時代の弁論家。字は子秉(しへい)。趙(山西省)の人で,平原君の食客となったが,斉の鄒衍(すうえん)のために退けられた。その著《公孫竜子》は6編だけ残存し,〈白馬論〉〈堅白論〉はとくに有名である。白馬は白と馬の2概念であり,馬は1概念であるから,白馬は馬と同じではない,のごとく説いた。詭弁とみられているが,名・実の概念を論理学的に追求したものと評価するむきもある。
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旺文社世界史事典 三訂版 「公孫竜」の解説

公孫 竜
こうそんりゅう

前320ごろ〜前250ごろ
戦国時代の諸子百家のひとりで,名家(論理学派)を代表する学者
燕 (えん) の昭王に非戦論を説き,趙 (ちよう) の平原君趙勝に厚遇された。『公孫竜』を著す。白馬非馬と堅白同異の弁で有名。

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世界大百科事典(旧版)内の公孫竜の言及

【堅白論】より

…中国,戦国期の名家,公孫竜の論理をいう。現在の《公孫竜子》によると,〈堅く,白い石〉は,手にふれて知る〈堅さ〉と目でみて知る〈白さ〉に分析でき,この二者は実在としてでなく〈石〉に内蔵され,ヒトの〈神〉によって知覚される〈石〉の属性である。…

【舌】より

…源信によれば,仏の舌の先の両側には二つの宝珠があって不死の唾液を舌根部に注ぎ優れた味覚を作るという。また,荘周の哲学を井蛙の譬(せいあのたとえ)とともに魏の牟(ぼう)に説かれた公孫竜は〈舌挙而不下(したあがりてくだらず) 乃逸而走(すなわちいっしてはしれり)〉という(《荘子》)。“舌を巻いて”遁走したはじまりである。…

【白馬非馬論】より

…中国,戦国期の名家,公孫竜(こうそんりゆう)の論理をさす。現存の《公孫竜子》によると,〈白馬〉は色彩〈白い〉が形状〈馬〉の属性として一体で知覚されるが,もし視覚の色彩を実在化して形状から独立させるときは無意味な2語に分裂するとして,それを〈白馬非馬〉と表現した。…

【平原君】より

…前257年,都の邯鄲(かんたん)を秦に包囲されたとき,彼は楚に使いして援軍を求めたが,食客の一人毛遂のはたらきで首尾よく楚を合従に同意させ,秦を破って趙を全うした。なお,詭弁で有名な名家の代表公孫竜も彼の食客の一人であった。【永田 英正】。…

【名家】より

…中国,戦国期の論理学派。恵施公孫竜がその代表である。司馬遷の父,司馬談〈六家要指(りくかのようし)〉にみえる名称で,秦・漢期以後は,荀子・春秋学系の礼法制度と綱常倫理との一致をもとめる儒教的名分論のもとで,〈名家〉はその観点からの概念分析家〈名実を正す〉学派としてのみ認定された。…

※「公孫竜」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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