中国,戦国時代の思想家。騶衍とも書く。生没年は不明。斉(山東省)の人で,稷下(しよくか)の学士(稷門)の一人。孟子より時代は少しおくれる。陰陽五行思想をはじめて組織的に整理したことで知られる。彼は,まず経験を帰納して一つの原則を考え,ついでその原則から演繹して未知の知識を求めた。彼の主張には二つの大きな特徴がある。一つは地理観において,儒者の説に反対して,大九州説(九州)を唱えたことである。彼によれば,儒者のいう中国とは,天下の81分の1を占めるにすぎないという。あと一つは歴史観に関するもので,終始五徳説とよばれる。その説によると,王朝の交替はその有する所の五行,すなわち木・火・土・金・水の五つの徳の転移によって起こるとされる。これは,のちに秦の始皇帝によって実際に採用された。彼の思想を継承展開したものに鄒奭(すうせき)がおり,燕・斉の方術の士にも大きな影響を与えた。また,天人感応の説によって,漢代の讖緯説(しんいせつ)の基礎にもなった。
執筆者:宇佐美 一博
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生没年不詳。中国、戦国期の思想家。陰陽(いんよう)五行家の祖。騶衍(すうえん)とも書く。斉(せい)の臨淄(りんし)(山東省)の人で、孟子(もうし)よりややあと、公孫竜(こうそんりゅう)と同じころの人。『史記』の「孟子荀卿(もうしじゅんけい)列伝」によると、故国の斉で名声を得たのち梁(りょう)、燕(えん)に行き好遇され、「終始大聖の篇(へん)十余万言」や『主運』を著したとされる。『漢書(かんじょ)』の「芸文志(げいもんし)」には『鄒子(すうし)』49篇、『鄒子終始』56篇が著録されているが、いまは伝わらない。彼は、最古の黄帝(こうてい)から当代に至るまでの興亡の歴史が土、木、金、火、水という五行相勝(そうしょう)(相剋(そうこく)、または五徳終始)の原理によって展開したと考え、未来を予見しようとした。また、当時の中国は赤県神州という小さな州であり、全世界の81分の1にすぎないとする大九州説を唱えた。
[中村璋八 2015年12月14日]
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…そこでは五行として水・火・木・金・土がこの順に列挙され,それぞれの性質や味が記されている。洪範では五行はまだ静止しているが,戦国期の陰陽家鄒衍(すうえん)はこれを歴史の場に適用し,王朝の交代を理論づけた。いわゆる五徳(五行のパワー)終始(循環の意)説である。…
…《書経》の甘誓篇と洪範篇に五行の名があらわれ,とくに洪範篇では,夏の禹王が天から授かったという9種類の天地の大法,いわゆる〈洪範九疇(きゆうちゆう)〉の第1に五行をあげたうえ,五行それぞれの性質を,水は潤下(じゆんか)(ものを潤して低きにつく),火は炎上(燃えて上にあがる),木は曲直(曲がりまたまっすぐになる),金は従革(自由に変形する),土は稼穡(かしよく)(種まきととりいれ)と説明している。しかし洪範篇成立の時代を確定することはむずかしく,五行説の創唱者としては戦国時代の斉の思想家鄒(騶)衍(すうえん)が考えられる。五徳終始説とよばれる鄒衍の五行説では,一代の帝王は五行のどれかひとつの徳をそなえ,王朝は五徳の順序にしたがって交代すると説かれた。…
…(1)土・木・金・火・水の五つの徳。中国,戦国時代に斉の騶衍(すうえん)は,王朝の交替,歴史の変遷を五徳の循環によって説明する,いわゆる五徳終始説をとなえた。それによると,循環は五行相勝(ごぎようそうしよう)の原理,すなわち〈木は土に勝ち,金は木に勝ち,火は金に勝ち,水は火に勝ち,土は水に勝つ〉とされる。それゆえ土徳に当たる黄帝の次には木徳に当たる夏王朝が興り,夏王朝の次には金徳に当たる殷王朝が興り,殷王朝の次には火徳に当たる周王朝が興り,周に代わって天下を統一するのは水徳の王朝(秦)である,と説かれた。…
…その数は数百人から1000人にものぼり,稷下の学士とか稷下先生とよばれた。宣王時代の鄒衍(すうえん),淳于髡(じゆんうこん),田駢(でんべん),慎到らはとくに有名である。斉のこのような学問優遇の伝統は襄王ごろまでつづき(前357‐前265),いわゆる稷下の学を形成して戦国時代の文化学術の一大中心となった。…
※「鄒衍」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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