水を利用する際に、その水の適合性を判定する基準。一般には水道法に基づく水道水の水質基準のことをいうが、水質汚濁防止法に基づく排水の水質基準や、下水道法による政令で定められた放流下水の水質基準、あるいは遊泳用プールの水質基準をさすこともある。さらに公害対策基本法に基づく水の環境基準の意味に用いられることもある。
[重田定義]
水道水としての第一条件は病原体を含まないことであるが、多量の水から病原体を検出することは技術的には困難である。しかし、水が屎尿(しにょう)によって汚染されていることが証明できれば病原体の混入が予想されるため、屎尿による汚染の証明法として大腸菌群の有無の検査が重視される。また、水が屎尿で汚染されると、化学的には尿素やアミノ酸などがアンモニウム塩を遊離し、これが細菌によって硝酸性窒素、亜硝酸性窒素へと酸化される。したがって、両物質が一定量以上の場合には屎尿による汚染を疑って飲用不適となる。なお、塩素イオンが多いときにも、いちおう屎尿汚染の疑いが出るが、細菌数や窒素化合物などに異常がなければ、地質や海水の影響、あるいは過去の汚染と考えられ、現在は浄化されているとされる。このほか、過マンガン酸カリウム消費量は、通常、水中の有機物の含有量を表すことから、有機物が多いということは、ほとんどの場合汚染されていると考えられる。水道水の第二条件は、障害をおこす物質の規制である。水質基準では、ある量を超えると障害をおこす物質の許容量を示している。これには水銀、シアン、六価クロム、ヒ素、鉛、フッ素、カドミウムなどのように障害をおこさない限度を示したものと、鉄、マンガン、フェノール類などのように着色、汚れ、臭みなどの害に関連して定められた限界値とが含まれる。そのほか、水道水においては外観、味などの条件も加味されている。
さらに、人口の都市集中化、産業の進展、産業技術の進歩などは、河川、湖沼など水道水源の汚染、水質汚濁の多様化、複雑化をもたらし、異臭、異味などの被害が増加しており、また水道原水中の有機物質が、浄水処理において用いられる塩素と結合して、発癌(はつがん)性のおそれのあるトリハロメタンが生成されるといった問題が生じた。そのため厚生省(現厚生労働省)では1992年(平成4)12月に水道の水質基準を約30年ぶりに大幅に見直し、法律として遵守すべき項目は従来の26項目から46項目に拡充強化するとともに、おいしい水を供給することを目標とした「快適水質項目」13項目、将来に向けて新たな化学物質に対応し安全性向上を目標とした「監視項目」26項目を定め、1993年12月から施行した。また、旧基準から10年を経過し、新たな水道水質にかかわる問題が提起されたことをうけて、2003年に水質基準が一部改正された。新しく追加された項目は、大腸菌、ホウ素、1,4-ジオキシサン、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、臭素、トリクロロ酢酸、ホルムアルデヒド、アルミニウム、ジエオスミン、2-メチルイソボルネオール、非イオン界面活性剤、全有機炭素の13項目、除外した項目は、大腸菌群、1,2-ジクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,3-ジクロロプロペン、シマジン、チウラム、チオベンカルブ、1,1,1-トリクロロエタン、有機物等(過マンガン酸カリウム消費量)の9項目である。
[重田定義]
水質汚濁防止法に基づいて、公共用水域の環境基準を守るために必要とされる排水基準で、カドミウム、水銀など人の健康にかかわる被害を生じさせるおそれのある物質と、水素イオン濃度(pH)、化学的酸素要求量(COD)などのように生活環境にかかわる被害を生じさせるおそれのある指標についての基準値が設定されている。なお、健康にかかわる有害物質についての排水基準は、1993年3月に拡充強化された「人の健康の保護に関する環境基準」を踏まえ、ジクロロメタン等の有機塩素系化合物、シマジン等の農薬など合計13項目について新たに排水基準を設定し、また鉛およびヒ素について基準値の強化を行い、1994年2月から排水規制を実施している。また、この排水基準は全国一律であるが、統一的な排水基準によって環境基準を達成することが困難な水域においては、都道府県が条例により厳しい上乗せ排水基準を設定できることになっている。
[重田定義]
下水道法による政令で定められた放流下水の水質基準であるが、公害関係の法律によって別に地域ごとに定められた水質基準がある場合はそれに従うこととなる。
[重田定義]
厚生労働省では、いわゆるプール病とよばれるアデノウイルス感染症をはじめ、皮膚疾患、眼・耳・鼻・咽喉(いんこう)などの疾患が遊泳用プールの微生物汚染によって発生することを予防するために、次のような水質基準を定めている。
(1)水素イオン濃度はpH5.8~8.6でなければならない。
(2)濁度は3度を超えてはならない。
(3)過マンガン酸カリウム消費量は12ppmを超えてはならない。
(4)残留塩素は遊離残留塩素において0.4ppmまたは総残留塩素において1.0ppm以上でなければならない。
(5)大腸菌群は100ミリリットル中の最確数が5を超えないこと。
[重田定義]
水を利用する際の適合性の判定となる基準。人が水を利用する形態によって水質基準の内容は違ってくるが,日本では,公共水域の水質は環境基本法により定められており,その内容は,人の健康保護に関する環境基準と生活環境の保全に関する環境基準の二通りの規制となっている。公共水域の水質保全があらゆる水利用の共通基盤となることから,このような二通りの規制がとられているのである。健康保護に関する基準では,カドミウム,鉛,6価クロム,ヒ素,総水銀,シアン,アルキル水銀,PCBなど23項目の物質とその基準値が指定されている。これらの基準値設定は,人が直接飲用したり,これらの物質を体内に濃縮した水産生物を食用とする場合を考慮して定められたものである。生活環境保全の基準は,河川,湖沼,海域をそれぞれ利用形態から類型(河川6類型,湖沼4類型,海域3類型)したものに対応して基準値が定められている。例えば,河川のもっともきびしいAA類型では,pH6.5~8.5,生物化学的酸素要求量(BOD)1mg/l以下,浮遊物質量25mg/l以下,溶存酸素7.5mg/l以上,大腸菌群数50MPN/100ml以下となっており,これは水道原水として利用する際には1級のランクに相当し,ろ過などの簡易な浄水操作のみで水道水となる。このような類型指定を受けたところでは,自然探勝の場所として環境保全がなされる。A類型はBOD2mg/l以下,大腸菌群数1000MPN/100ml以下と基準がゆるくなるが,水道2級,水浴に適しているとともに水産1級(ヤマメ,イワナなどの水産生物用の水質)にも相当する。類型ランクの低下とともに,工業用水,農業用水の利用目的に対応する。湖沼の場合も河川と同様の類型と水質基準値が設定されているが,項目としてBODの代りに化学的酸素要求量(COD)が用いられる。海域も同様にCODを用い,また浮遊物質の代りに油汚染の指標として,n-ヘキサン抽出物質の項目が入り,A,B類型では検出されないことと規定されている。
一方,水質汚濁防止法では,公共水域の環境基準を守るために工場排水,下水処理水,事業所排水などに関して排水基準が定められている。これによると,健康項目に対応して,有害物質としてカドミウム化合物,シアン化合物,有機リン化合物,鉛化合物,6価クロム化合物,ヒ素化合物,水銀化合物(0.005mg/l以下),アルキル水銀,PCBなど23の物質が定められ,また生活環境保全の目的から,pH,BOD,COD,浮遊物質,n-ヘキサン抽出物質,フェノール類,大腸菌群数,銅,亜鉛,鉄,マンガン,クロム,フッ素,窒素またはリン(総理府令で定める場合)の項目にそれぞれ基準が設定されている。これらの基準値は公共水域の地域特性を考慮して,都道府県の条例できびしくすることができ,また,必要に応じて新しく項目を加えることができる。
なお,水道水などの飲料水基準は,健康項目の内容に関して環境基準とまったく同じであるが,それ以外に飲料水として適否を判断する項目と基準値が設定されている。
→飲料水
執筆者:松井 三郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
河川や湖沼,さらに飲料水などについて定められている水質に関する基準.人間の健康と水生生物を含めた自然環境の保全を目的として定められている.河川や湖沼については水素イオン濃度(pH),化学的酸素要求量(COD),浮遊物質(SS)や溶存酸素(DO)量,大腸菌群数,および全窒素,全リン量などについて基準値が定められている.飲料水では,WHOの飲料水水質ガイドラインをもとに,一般細菌,大腸菌などの病原生物の指標項目,カドミウム,水銀,鉛などの無機物質・重金属項目,一般有機化学物質,消毒副生成物,農薬など健康に関する29項目と,亜鉛,鉄,銅など水道水が有すべき性状に関連する17項目のあわせて46項目が水質基準として水道法に定められている.さらに,水質基準を補完する項目として,色や臭いなどに関する13項目,および農薬や有機化合物に関する35項目が定められている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
(杉本裕明 朝日新聞記者 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…飲料水源が人の排泄物などで汚染されると伝染病の原因となることは,細菌学発達(19世紀末)以前に医学的知識として十分に理解されており,そのため古来より汚染を受けていない上質の飲料水源を選択することがきわめて重要であった。
[飲料水の判定基準]
日本では水道(上水道)については,〈水道法〉に基づく水質基準に関する省令によって適否が判定されるが,井戸水など一般の飲料水についても,これを準用した形で飲料水の判定基準が設けられている。飲料水の適否判定を行うに当たってもっとも重要なことは,水源の種類とその汚染の程度を含めた環境調査をすることであり,そのうえで種々の試験によって判定する。…
…
[水質管理と浄水場]
どこの国でも上水道は直接飲用可能な水を配ることを目的としている。その具体的水質要件として各国では水質基準が定められ,水道水の水質レベルが向上してきた。しかし汚染が広がり,分析技術が進歩した今日,環境水中から多種類の人工合成化学物質が微量ながら検出されるようになり,安全な水とは何かの規定は流動的になってきている。…
※「水質基準」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
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