六十六部(読み)ロクジュウロクブ

デジタル大辞泉 「六十六部」の意味・読み・例文・類語

ろくじゅうろく‐ぶ〔ロクジフロク‐〕【六十六部】

法華経を66回書写して、一部ずつを66か所の霊場に納めて歩いた巡礼者。室町時代に始まるという。また、江戸時代に、仏像を入れた厨子ずしを背負ってかねや鈴を鳴らして米銭を請い歩いた者。六部ろくぶ

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精選版 日本国語大辞典 「六十六部」の意味・読み・例文・類語

ろくじゅうろく‐ぶロクジフ‥【六十六部】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 全国六六か所の霊場に一部ずつ納めて回るために書写した、六六部の法華経。また、それを納めて回る行脚僧。室町時代に始まり、江戸時代には、僧侶のほかに、鼠木綿着物に同色の手甲・甲掛股引・脚絆をつけ、仏像を入れた厨子を背負って、鉦(かね)や鈴を鳴らして米銭を乞い歩いた者をいう。六部。
    1. 六十六部<b>①</b>〈絵本御伽品鏡〉
      六十六部〈絵本御伽品鏡〉
    2. [初出の実例]「或有六十六部回国之経聖負笈」(出典:桂川地蔵記(1416頃)上)
  3. ( が前帯に鉦をぶらさげていたところから、「前が鉦」といい、それを「前が金」にかけて ) 売春婦をしゃれていった語。
    1. [初出の実例]「六十六部で、まへがかねぢゃ」(出典:すい言葉廓流行(1830‐44頃))

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改訂新版 世界大百科事典 「六十六部」の意味・わかりやすい解説

六十六部 (ろくじゅうろくぶ)

正しくは日本回国大乗妙典六十六部経聖(ひじり)といい,江戸時代にはおとしめられて六十六部または六部の略称でよばれた回国聖。今も各地にこの回国供養碑を見ることができる。江戸時代には単なる回国聖または遊行(ゆぎよう)聖になってしまったが,中世には法華経六十六部を如法(によほう)に写経し,これを日本全国の霊仏霊社に納経するために回国したのである。西国三十三所観音霊場の巡礼納経にならって,六十六部納経したとも考えられるが,日本全国六十六ヵ国をめぐることによって,より大きな功徳を積もうとしたものであろう。六十六ヵ国の霊場については,《塩尻》(第七十六)に記すところでは神社と仏寺と相半ばしている。その起源には諸説があるが,六十六ヵ国の国分尼寺が法華滅罪之寺だったので,《法華経》書写と納経によって,滅罪と豊穣を祈ったものと思われる。そのために江戸時代には,故郷で罪を犯して滅罪のために六十六部となって回国に出て,一生を旅の空に送る者があった。その終焉の場を提供したのが京都東山鳥辺野の宝福寺(時宗)であり,六部墓というものがあった。しかし信仰のために六十六部回国に出る者もあって,回国の途中で信者ができれば,その村の堂や庵に定着して一生を送った。このような者が村人に勧進して建てたのが回国供養碑である。回国の霊場では実際の《法華経》よりは納経札を納めるようになったが,これは三十三所観音巡礼や四国八十八ヵ所遍路に踏襲された。
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山川 日本史小辞典 改訂新版 「六十六部」の解説

六十六部
ろくじゅうろくぶ

詳しくは日本廻国大乗妙典六十六部経聖(ひじり)。略称は六部・廻国。「法華経」66部を書写し,全国66州の霊場に1部ずつ奉納する廻国の修行者,またその書写した経典。江戸時代には経典でなく納経札が奉納された。各国の一宮や国分寺に納めることが多いが,必ずしも一定せず巡路も決まっていない。六十六部に身をやつした物乞いも多く,行き倒れのあった場所には六部塚が作られた。

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世界大百科事典(旧版)内の六十六部の言及

【巡礼】より

…広い地域に散在する寺院や霊場をゆるやかな円運動を描いて巡るところはインドの場合と同じであるが,カミやホトケに見守られつつ行脚する旅であるところに特色がみられる。【山折 哲雄】
[日本]
 日本では,順礼とも書き,西国,坂東,秩父などの三十三観音巡礼や四国八十八ヵ所巡拝のように,巡る寺々ばかりでなく,その順序まで番号順に定まっているものから,日本全国66ヵ国の代表的な聖地に,法華経を一部ずつ奉納する六十六部のように,巡拝のコースはもちろんのこと,対象となる神社寺院さえもはっきりとは決まっていないものまで,さまざまな巡礼がある。さらには,とくに巡拝地を定めず,単に各地に散在する聖地を巡り歩く,巡礼霊場としてのまとまりをほとんどもたない巡拝にも,古くから〈巡礼〉のことばが使われてきた。…

※「六十六部」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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